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変化の果てに  作者: 夜霧_〆
case0 非日常の世界にこんにちは
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《side Kanade》


 いつも通り面倒な授業を終えた放課後。まだ明るい通学路を歩いて家へ向かっていた。走り回る子供達に買い物袋をぶら下げて楽しげに話している近所の奥様達。うん、本当にいつも通り。

 ここまでいつも通りなら、もう変化など起きるわけがない。

 やはり劇的な変化の起きる日なんてものはないんだ。……いや、あるにはあるのか。でも、俺にとってのそれはもうとっくの前に終わっている。どういう変化かは明言しないけど。

 そう、そう思っていたんだ。なのに、家に帰った俺を待っていたのは確かに劇的な変化だった。

 玄関の扉を引けば珍しいことに鍵が開いていて。少し首をかしげながら中に入って、自分の部屋に行こうとして気づく。……リビングから二人位の人間の会話。妹が友達でもつれてきているのか? いや。違う。リビングに近づく前にそれは分かった。これでも耳には自信があるんだ。

 じゃあ誰だろうか。一つはよく聞き慣れた声だ。普段家にはいないけど毎日のように電話をしてくる。昨日も話した。

 そう考えるうちに俺の足はリビングの入り口の前で止まっていた。中から聞こえてくる声は少し高めの落ち着いた声。ものすごく丁寧な口調で話している。……客か? そう思いながら俺はリビングに踏み込むことを選ぶ。


 「母さん、帰ってくるんなら三日前に連絡しろって行ったろ」

 「あら、やっと帰ってきたのね。ちょっと席について。紹介したいから」


 客など無視で母さんに文句を言う。が、さらりと流されて座るようにを促されてしまった。ため息を吐きながらも大人しく言われた場所に腰を下ろすに着くと、母さんは時計を見つめて落ち着かない様子。そうしてしばらくローテーブルの周りをうろついた後、俺の横に座った。

 顔を上げればそこには穏やかに笑む人。緩く内側にハネた艶やかな黒い髪に白い肌。あ、でも何箇所は外側にハネてんだ。でも、それさえ気にならないほど、目の前の人は美人だった。

 釣り目気味のその目さえ、雰囲気をキツく感じさせないのは顔がいいからか。顔立ちは中性的だ。パッと見、男か女か迷ってしまう。少なくても俺にはわからない。

 次に目に入ったのは首もとに輝く紅い紅い宝石。今時そんな宝石持ってんのいいとこの子供くらいだぞ。そして、前髪を止めたヘアピンのようなもの。数字の四のような形をしている。


 「こちら四季くん。色々事情があって海外で家族と死別したらしくてね。母さんの知り合いの子供だったから、帰国するなら家にどうぞって声をかけたのよ。しばらくは家に住むことになるから仲良くしてあげてね。部屋は奏の部屋の隣」

 「初めまして。浅葱アサギ 四季シキと申します。しばらくの間お世話になります」

 「はあ……。黒井クロイ カナデです。どうぞ宜しく」


 丁寧に頭を下げた浅葱さんに聞いてねぇんだけどなんて心の中で呟いてみても何も変わらず、俺はため息を吐いて自分の名前を名乗る。浅葱さんは静かに微笑を浮かべて頷いてみせる。っく、美人の微笑、眩しい。

 ……じゃなくて。こういうことは前もって連絡しておいて欲しいよな。昨日の電話では何も言ってなかったじゃないか。そんな恨みのこもった視線を向けてみても母さんは気付かないフリで時計を気にしている。

 何だよこの人。マジでありえねぇ。いっつもいっつも物事勝手に決めてこっちに丸投げ。本当なんでこんなのが親なのか分からない。分かりたくもない。

 

 「ごめんなさい、母さんもう行かなくちゃ。詩にも会っていきたかったんだけど」

 「あっそ。詩にはちゃんと伝えとくよ」


 ごめんね、なんて思ってもいないだろう謝罪を繰り返しながら去っていく母さんを冷たく見つめた後、俺は深く息を吐いた。見知らぬ二人と自宅で二人きりなんて居心地が悪い。早く妹帰ってきてくんないかな。

 そんな事を考えていると正面からクツクツと笑う声が聞こえた。誰のものなのかなんて考える必要もない。


 「さあて、面倒だ。とっととネタバラシさせてもらうぜ」

 「は……?」


 思わず声を出して相手を見つめてしまう。そうもしたくなるような豹変っぷりだったのだから仕方がない。

 さっきまで丁寧で穏やかな様子だった相手が急に態度を変えたのだ。いかにも人畜無害そうだった笑みは人を見下したようなものに変わっていて。口調も荒い。変化についていけない俺は相当アホっぽい顔をしていたと思う。でも浅葱さんはそんなこと気にも留めていないといった様子で言葉を続けた。


 「俺はあんたの親に雇われた“何でも屋”だ。今回の仕事はお前とその妹の護衛。まーなんだ、お前命狙われてんぞ」

 「なんだ、それ……」


 理解できるわけもなかった。何だその非現実的な話は。命を狙われる? 何故? 俺は何もしていない。命を狙われている理由なんて思いつかない。

 そんな風に思考をめぐらせていると目の前の相手は一層楽しそうに笑う。


 「わからねーって顔だな。まぁお前が悪いと言うよりは親と爺さんばーさんのせいだし。お前も災難だな」


 さも当然のように言ったっきり浅葱さんは口を閉ざしてしまう。ちょっと、まだわかんねーことだらけなんだけど。聞いておきたくないことたくさんあるんだけど。質問してもいいのか?

 様子を窺うように浅葱さんを見てみるけれど、浅葱さんは気付いていないようで、髪の毛を見ては引きちぎったりしている。……枝毛か? すっごい綺麗な髪の毛に見えるのに千切っちまうなんて勿体無い。千切った毛らしきものはいつの間にかテーブルの上に置かれた一枚のティッシュの上に並べられている。

 何やってんだろうこの人。そんな風に考えながらアサギさんを見つめ続けていると、その眉間にグッと皺が寄る。……あ、少し不機嫌? ジロジロ見すぎたかな。


 「ジロジロ見んな。俺は見世物じゃねーんだ。聞きたいことがあるなら答えてやる。無知な奴を護衛すんのは面倒だしな」

 「えっ……ああ、すまん。じゃあ聞くけど何でも屋って何だ、護衛って何をするんだ、俺の親達は何をやらかしたんだ。お前は男か女か?」

 「一度にまあ沢山……あーいいよ別に。じゃあ答えんぞ。何でも屋っつーのはそのまま。それに見合った報酬さえもらえれば、人探し、カップルの喧嘩仲裁に破局手伝い、人殺し、雑用なんでもござれってな。最近は殺しが多かったけど。護衛も分かるだろ普通。お前の命を狙ってる奴からお前らを守る。それだけ。必要なら殺すこともあるな」


 そこまで言って浅葱さんは一度言葉を止めた。何かを考えているように見える。


 「隠せって言われてねーから言うけど期間は三年。お前が高校を卒業するまでだ。護衛と同時にお前にある程度護身の術を叩き込むことにもなってる。ま、頑張れ。お前の親がやらかしたのは面倒な奴らに敵対しちまったってだけさ。ほらドラマとかでよくあるだろう? 邪魔者は消すって。他にも最近は裕福な家を狙った殺しも多いしな。俺の性別についてはノーコメントだ」


 すぐに分かることだし、関係ないだろ。なんていって浅葱さんは口を閉ざしてしまった。いや関係あるんだよ。男なら多めに飯の用意しなきゃだし。でも、しつこく聞いて、機嫌損ねても面倒だしな。

 うーん、多めに作って余ったら弁当につめるなりすりゃいいか。

 そう考えて俺が席を立つと、浅葱さんはさほど興味なさそうにしながらも俺を見上げた。護衛って言うんだから一応行動を把握しようとしてんのかな、多分。

 にしても家の親はどーして面倒な奴らと敵対なんて……。浅葱さんの言う“面倒な奴”がどういうものかはよく分からないけれど、容赦なく命を狙ってくるやつだということは確定らしい。そうでもないと護衛なんていらねーだろうし。

 そういう連中とは関わらないに越したことはないだろうに。


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