冷凍食品農薬混入事件 第4話
あいつさへいなければ…私に興味があるくせに、私を馬鹿にしたあいつ…それに、同じ班であいつの肩をもつやつらも同罪だ。会社も潰れてしまえばいい。私が失うものよりももっともっと大きなものをあいつから奪ってやる…あはははは…
……………
「お疲れさま~、あー、腰が痛いわー。さすがに連日同じ姿勢を長く続けるとだめだわ。これは、スーパー銭湯に入りいの、マッサージを受けえのだわね。」
「まるでそこらのおっさんだな。正しい姿勢を身につけ、それを習慣とすれば、体も慣れるし疲れも少ないはずだぞ。」
「はいはい、ということで、食事はスーパー銭湯でよろしく!」
「いいだろう、明日は店も休みだし、今日はのんびりしよう。」
「ぷはーっ、やっぱり風呂あがりはトマトジュースよねっ!」
「そこはビールじゃないのか?」
「へっ?サワゴンだって飲めないくせに。私は運転あるから仕方ないけどさ。それじゃ、昼間の続きいってみよっか?」
「ああ、犯人像だったな。」
「そそ、何かサワゴンの話を聞いてると犯人が女性みたく言ってない?」
「そうだな、何も女性だって根拠があるわけじゃない。あくまで俺の直観って、非論理的なものだけで語っているから、俺自身納得はしてないさ。」
「まあ、性別はおいといて、犯行動機ってどう思う?」
「何度も繰り返すようだが、俺はこの事件の犯行は幼稚な手口だと思っている。犯行動機は復讐か怨恨だろうな。」
「それしか考えられないわよね。会社に恨みがあって、潰れてしまえってこと意外に考えられないわ。」
「いや、ターゲットは会社とは限らないだろ?」
「え?でも、そんなことをされて損をするのは会社しかないじゃない?」
「犯罪において、犯人を考察する場合、一番利益を得るのは誰かというものがある。」
「それは知ってるわ。でも、この場合、利益を得るとすればライバル会社くらいだけど、門山フーズは確かに損害を受けるでしょうけど、冷凍食品全体に不信感があって、かえって自分の会社の製品にもマイナスになるんじゃないかしら?」
「そうだな。だから、ライバル会社、もしくはその関係者の犯行とは考えられないな。」
「それじゃ、利益を得る者って誰?」
「例えばだ、会社の役員で社長レースをしていれば、現社長の退任を狙う者がまず考えられるな。」
「でも、これだけ世間を騒がせて、会社の存続自体危ういじゃない。確か以前も、牛乳だったかしら、汚染されてた問題で結局会社自体が潰れたってこともあったと思うわ。」
「うまくいけばもうけもの、悪くとも現社長が失脚すればそれでいいと考えればどうだ?」
「でも、そうなったとしても自分が社長に就任したとしても、かなりのギャンブルだわ。」
「ギャンブルでも、結局は自分の目的を達することができれば、それで満足ならばありうるというだけのことだ。俺も、本当にそういうやつが犯人だとは思っていないし、仮に犯人、もしくは教唆したとすればあまりにもお粗末だからな。」
「それじゃ、利益を得る者っていないじゃない。」
「利益というのは何も金銭的なことだけじゃないぞ。」
「というと?」
「そう、利益を得るものはいない。だが、さっきの社長レースで言ったように、会社が潰れる、誰かが責任を問われることで満足する者はいるだろうな。」
「それって、怨恨ってことよね。」
「ああ、会社に対する怨恨というよりは、誰かに対する怨恨と俺は思う。」
「誰か…ということは、個人ってことかしら?」
「そうだな。この事件には、ノイズが入っている。」
「ノイズ?」
「要するに、犯人の狙いとは別のとらえ方をされていることがあるってことだ。」
「どういうことかしら?」
「わからないか?複数の種類の製品に農薬が混入されていたってことなんだが。」
「それって、ニュースでも言ってたわね。製造ラインでは商品を扱う人は一つの種類の商品しか扱えない。でも、梱包の場合、別の商品のところにも行き来できる。でも、そんなことをすれば目立つ。どうやったんだろうって謎だって。」
「それは、犯人の意図するところじゃなかったと俺は思うんだ。」
「たまたまってこと?」
「そうだな。偶然というか、犯人の無知がこの場合のノイズなんだ。この複数の種類の製品から農薬が検出されたってことの重大さはわかるかな?」
「えっと、警察の捜査をかく乱させるってこと?」
「いや、会社にとってのダメージだよ。単一の商品の場合と比較すればよくわかるだろう。」
「単一の商品だと…あっ、その商品だけ回収すればいいってこと?」
「その通りだ。だが、複数の種類の商品に農薬が混入していたってことは、そこで製造された全ての商品を回収しなければならない。会社にとっての損害は単一商品の場合と比べて計り知れないな。」
「たしかに、一つの商品だけだったら、例えばコロッケだけ注意すればいいけど、いろんな種類に混入されてたと聞いたら、その会社の商品は買えないわね。」
「そう、その工場で作られていた商品だけでなく、とにかく門山フーズの冷凍食品は買わない…それが消費者心理というものだ。これは会社にとって大きい。」
「でも、それを意図したわけじゃないってこと?」
「俺はそう考えている。」
「それじゃ、何のためにわざわざいろんな商品に農薬を?」
「おそらく、いつまでたってもニュースで農薬混入が報じられない。1回やってばれなかった。なら、もう一度…そんな感じじゃないかと思う。犯人は作られたものがすぐに店頭に並ぶと思っていたんじゃないかな?」
「そうかしら?でも、それじゃ複数の種類の商品に農薬が混入された答えになっていないわ。」
「犯人にとっては、どの商品でもよかったと思う。ただ、どこの職場でも、他の従業員が休んだ場合、他の職場から応援できるようにローテーションが組まれてて、今週はコロッケ、来週はピザというふうに仕事場は固定されてなかったんじゃないかな。」
「なるほど、最初はコロッケに入れたけど、2回目に入れた時はピザのラインの担当になってたってことね。」
「製造された日付も1か月くらいの幅があったそうじゃないか。それなら、何度か犯行を重ねて、結果的に複数の種類の商品に混入ってなったと思うよ。」
「そうすると、やっぱり梱包室の従業員の誰かが犯人ってことかしら。」
「そうだな、製造ラインでのローテーションはそんなに短期間では行わないと思う。熟練性が要求されるだろうからな。それに比べて、梱包段階となれば、パートさんでもやっていける…だから、製造ラインは除外してもいいだろうし、保管から発送段階というのも、犯行の手口から推察すれば可能性は低いな。」
「それで、犯人は?」
「ここからは、俺の妄想だがいいか?」
「ええ。」
「ラインのローテーションは班ごとに行われる。班長は正社員、班のメンバーは社員とパートさんだ。班長が犯人とすると、会社への怨恨ということになるが、社員であれば商品が店頭に並ぶまでのタイムラグは知っているはずだ。それに、会社が倒産すれば退職金さへ出ない。幾ら自己満足の欲求があっても、それで犯行に手を染めるとは考えにくい。」
「とすると班員の誰かね。」
「さらに推理小説もどきの妄想になるが、犯人はパートの女性で、班長と何らかの関係…男と女の関係にあった者。それに加えて、班のメンバーからはあまりよく思われていない女性だと思う。」
「えらく具体的ね。」
「何度も執拗に農薬を混入させたことから俺なりにプロファイリングしてみた結果だ。プロファイリングと言っても、むしろあてずっぽうの方が強いけどな。」
「何となくサワゴンの妄想のイメージ、私にはわかるわ。つまり、班長といい仲になったけれど、班の仲間からはよく思われていない。班長としては班をうまくまとめなければならないから、自然とその犯人をうっとおしく思って遠ざける。犯人は、次第に班長、班の仲間に恨みを抱くようになった。商品に農薬を混入すれば、班長にも責任が及ぶ。会社が倒産すれば班の仲間も職を失う。そんな自分勝手な動機が犯行に走らせた…どう、あってる?」
「その通りだ。俺の妄想にぴったりだな。」
「狂ってるわ。そんなに自己中な犯行って…。」
「今の時代、自己中心的な犯罪の方が多いと思うんだがな。」
「確かにね。それにしても、そんな人が犯人だったら憂鬱だな。」
「心配するな、俺の単なる妄想だ。事実は、違った解決をみて、俺の妄想は大外れって後で笑われるだけだよ。さあ、もう一風呂浴びてくるか。」
「どうぞ、いってらっしゃい。私も、マッサージを受けにいってくるわ。」
ミッツィーには黙っていたが、まだ俺の仕事は片付いてない。明日も休日出勤だな…広い湯船に顔を沈めながら、沢口は心の中でぐちっていた。
実際の事件では、どういった結末を迎えるでしょう。それが判明してからエンディングを書いてみようと思っています。