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伽藍堂事件簿  作者: 砂流
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冷凍食品農薬混入事件 第3話

女が悪いわけではない。のろまなわけでも、協調性がないわけでもない、ただ班長と波長があわないとでも言うのだろうか…。


3人集まれば派閥ができるという。よそ者を疎外するムラ意識、あるいは自らの利益を守ろうとする先取特権意識とでもいうのだろうか、そうしたものが後からきた和美を職場からのけものにしようと働いていた。


日常生活では正常な判断ができる。社交性もあれば、一般的な善悪の判断もできる。狂気はそんな人間の奥底に眠っており、ほんの一瞬だけ顔をのぞかせる…その一瞬だけで、犯行を行うには十分だった。


……………


「じゃあ、続きをいってみましょ。梱包室の前の製造工程よね。」


「ああ、製造工程での混入には3つパターンが考えられる。」


「3つもある?」


「まず原料段階、次に工程内での混入、最後に機械的な混入の3つだ。」

「前の2つはわかるけど、機械的混入って?」


「要するにラインを構成する機械自体に農薬が付着していたという可能性だよ。」


「機械の中に、農薬が仕掛けられてたってこと?」


「別に意識して仕掛ける必要はない。例えば、循環させるオイルの中に農薬が混在して、それが何らかの原因で漏れて製品に混入したとか、メンテナンスで部品を清掃する際に誤って農薬を使ったまま落とさなかったということも考えられるだろう。」


「ふーん、そういえば、機械って定期的なメンテナンスがあるわよね。それって、製造時間が終わってからの作業だし、作業に必要なものの中に農薬を紛れ込ませれば、何も製造している時に混入させる必要はないわけよね。」


「だが、この場合、問題点が多すぎるな。」


「それは、私にもわかるわ。実際に製品をラインに流せば、後工程、つまり梱包作業の時に農薬の異臭に気付くはずだし、同じ製造ラインで一つの製品にだけ付着するんじゃなくて、ある程度まとまった数の製品も同様に農薬が入ってしまうはずよね。」


「そういうことだ。同じ薬剤を使ってメンテナンスをしたとすれば、他の製造ラインでもひにちを変えて混入する可能性はあるが、通常であればメンテナンスに使う薬剤は、無害な薬剤で洗浄されるはずだから、故意でなければ事故として起きる可能性は少ない。それに、故意であれば、ミッツィーの言うように、後工程で発覚する可能性が高い犯行など愚かすぎる。」


「じゃあ、機械的な混入ってのはないってことね?」


「事故という意味では可能性は限りなくゼロに近いだろう。だが、知能的犯罪であれば否定はできんのだよ。」


「知能的犯罪?」


「これは、製造過程での可能性とも関連するが、例えば農薬を無色透明で溶けやすい何かで包んだとしよう。」


「オブラート…みたいな?」


「そうだな、けどオブラートじゃ一瞬で溶けてしまうだろうから用をなさない。相当量の農薬を包んでなおかつ少なくとも数時間は溶けないもの…あるのかどうかもわからないが、そういう知識があったとする。」


「それを製造過程で混入させる?」


「そうだ。製造工程中で、食品の中に目立たずに埋め込めるような仕掛け、もしくは製造ラインでそれを行うことができた人間がいれば、後工程で異臭を封じ込めた上で梱包され、時間の経過により農薬を包んでいたものが溶けだせば犯行は成る。」


「推理小説なんかでは、カプセルに毒薬を仕込んで、アリバイ工作をするなんてのもあったわね。あれと同じようなものね。」


「だが、それにしても検品で発覚する可能性はあるだろう。それほど、食品の検品というものは厳しいチェックがあるだろうからな。そして、それらのチェックで発見されれば、容疑者となる者は後工程に比べてずっと絞り込まれる。農薬の包装まで考えるような犯人がそれほどのリスクを冒すとは考えにくい。」


「可能ではあるけれど、現実的ではないってことかしら?」


「うーむ、近いかも知れないな。午前中も言ったが、俺はこの事件、犯罪とすれば幼稚だと思っている。知能犯罪とはどうしても思えないんだ。」


「それは、サワゴンの主観よね?最後の原料だけど、これは私にもないってわかるわ。」


「なぜ?」


「だって、原料って製造工程で混ぜられるわけよね。ということは、まんべんなく多くの製品に混入されるわけだわ。異臭に全ての工程で気付かないなんてありえない。それに、異常が発見されている製品が、原料段階での混入にしては少なすぎるわ。」


「そうだな、俺もそう思う。原料段階での混入は完全に除外していいだろうな。」


「ということは、製造から出荷までに限定されるわけね。そのうち、最も怪しいのが梱包、それもパックされる直前ってことかあ。やった人って、どんな人だったのかしらね?」


「人物像はプロファイリングの知識があれば、ある程度予想できるだろう。警察もおそらくは、可能性のある人物をマークしてるんじゃないかな。さて、今日中にこいつを仕上げておきたいんだ。仕事に戻ろうじゃないか。」


「では、人物像はディナーの時ってことで、今夜の夕食楽しみにしてます。」


「ん?それって、おごれってことか?」


「もちろん。」


何がもちろんなんだか。「もちろん」とは「当然」という意味だろう。ある原因があって、必ずその結果が生じるということなのだが、俺には何が夕食をおごる原因となっているのか、わからない。これが女性思考というやつなのだろうか。


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