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伽藍堂事件簿  作者: 砂流
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冷凍食品農薬混入事件 第2話

私は精一杯頑張ったわ。あの会社が全て悪い。私は何も悪くない。あの女たち、男たちが悪い。


……………


ミッツィーの作業が一息ついたのは1時を回った頃だった。仕事がら、正午きっかりに昼食に入ることは少ない。仕事の流れによっては、2時、3時となることもざらだ。沢口の仕事が延びる時は、遠慮せずにミッツィーに先に昼食を済ませるように言ってある。逆の場合は、沢口が待つ。ミッツィーは待たなくてもいいと言うが、これは沢口の矜持とでも言うのだろうか…。


「この時間なら、どこの店でもすいてると思うが、食いに行くか?」


「うーん、例の話の続きが聞きたいわ。出前にしましょ。」


「そっか、じゃあ電話しよう。何にする?」


「そうねー、私ピザがいいわ。ミックスピザのスモールとコールスローサラダをお願い。」


「何だよ、俺は丼物がよかったんだが、まあいいか。」


電話で注文をしている間に、ミッツィーが珈琲を二人分淹れて持ってくる。


「それじゃ、核心ね。マスコミでも怪しいって言ってる梱包のところだけど、どう?」


「ああ、難しいがやれないことはないだろうな。」


「じゃあ、私が質問していいかしら?」


「どうぞ。」


「まず、どうやって持ち込んだかってことよね。作業着にポケットはないって言ってるけど、下着に忍び込ませて持ってこれるって言ってる従業員もいるわ。そう思う?」


「そうだな。何も下着に限定することはないだろう。湿布を貼って、それに小瓶に入れた農薬を仕込むことだってできるだろうし、靴下にだって隠せるな。ただ、一番目立たないのが下着ってだけの話だ。」


「でも、取り出す時って目立つよね?」


「不自然な動作になるだろうな。けど、何も実行する時に取り出す必要はないんじゃないか?作業する周辺で見つからずにおける場所だって幾らかあるだろう。休憩時間だってあるはずだから、必ずしもずっと監視の目があるわけじゃないだろう。」


「監視カメラもあるって言ってたけど、あれって何日かしたら上書きされるみたいね。知ってたのかしら?」


「それはどうかな。むしろ、監視カメラで見られててもいいと腹をくくってたんじゃないかと俺は思うぞ。上書きされるなんて知識がある犯人じゃないと思う。」


「それじゃ、犯人は知能犯じゃないってこと?」


「ああ、そう思う。」


「なぜ?」


「犯行の幼稚さだ。」


「これだけ犯人が特定されない事件の犯行が幼稚だって言うの?」


「事件の難易と犯行のレベルとはまた別だ。計画的で用意周到、高度なトリックを使った犯行が必ずしも事件を解決するのに難易度が高いわけじゃない。誰でもでき、どこにでもいるような犯人の方が、むしろ事件の解決を難しくすることだって多々ある。」


「幼稚だって根拠は?」


「あまりにも犯行が行き当たりばったりだし、食品にそのまま農薬混入なんてあまりに単純な行為だと思わないか?」


「まあ、確かに…時間差を作ってアリバイ工作するような犯行からすればね…って、それって推理ドラマの観すぎ!犯人像はともかく、そういう手段で農薬を持ち込んだとしましょう。でも、どうやって気づかれずに食品に混入させたのかしら?」


「そりゃ、チェックするふりをしてふりかけたんだろうよ。」


「ちょっと、それってすぐに気付かれるじゃない。あ、そういえば、マラチオンって必ずしも匂いがきついわけじゃないって言ってる解説者がいたけど、確かあれって温度が低いと揮発性がどうこうであまり匂わないのかしら?」


「匂いについては、マラチオン自体を俺は知らないから断定はできんが、パックする直前に混入させればそれほど匂いは拡散しないんじゃないかな。」


「温度が低いから匂わなかったってことじゃなくて?」


「ああ、さっきも言ったが犯行自体は幼稚なんだ。そこまで考えてはいなかったろうし、最初の犯行ではそれなりに緊張もあるだろう。容器を持っているだけでも農薬の温度は常温程度にはあがってたと思うがな。」


「パックするってことは、一番後ろの工程の人が怪しいってことかしら?」


「気づかれにくいという点ではそういうことだ。むしろ、ラインの前方ではやり辛いはずだしな。それと換気だ。半導体を製造するようなクリーンルームの場合、排気口が必ずある。この工場の場合はどうかしらんが、俺なら製造ラインの上流から下流に空気が流れるように部屋を設計する。流れが逆向きだと万一、空気中に雑菌が混ざり込んだ場合、製品全体に被害が及ぶからな。ということはだ、わずかな空気の流れではあってもラインの上流から下流に空気が流れていれば、匂いも上流にはいきにくいってことだ。それを考慮すれば、最終ラインの尻にいた方がやりやすいってことなんだよな。」


「そっかー、部屋は密閉されてるからもっと匂いが広がるかと思ったんだけどな。」


「仮に俺が、この幼稚な犯人だったとしよう。まず、ブラの中にでも農薬の入った小瓶を隠して部屋に入る。」

「ちょ、ブラって女性に限定するわけ?」


「いや、何となくだ。男でももちろんいいが、そうなるとパンツじゃちょっとな。靴下かインナーが隠すのにはいいか。」


「女性の方が隠しやすいってことね。」


「そういうこと。できれば、朝一番に入れる時がいいんだが、もしルールがきちんと守られているなら、班ごとの入室になるんだろうな。梱包室に入室したら、テーブルの下なり、物を置く隙間なりに小瓶を隠す。そして、実行の直前に…そうだな、作業の際には手袋をしてたそうだから、手袋の中にでも隠し直そうか。そして、作業の中で他の従業員の注意が散漫になりやすい時間帯、かつ自分がパックする位置にいるときに混入させる。」


「なるほどね。それなら気づかれずに混入できそうね。」


「本当は、幾つか問題も残っているんだがな。まあ、それはいいだろう。」



「お待たせしました、ピザボックスですぅ。」


「お、25分か、ぎりぎりセーフだな、残念!」


「お腹ペコペコだわ。続きは食べながらね。」


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