ファントム、コーヒーを飲む3
「あの高層タワーですからね、逃げるにもルートは限られます。空を飛べればもっと選択肢は増えますが、さすがにそれは難しい。となると、階段を使って降りるか、エレベーターか、飛び降りるか」
言ってみれば逃げ場のない高所。それを見越してMI6もあの場所を指定したのは明白だった。
「だから、それなりの装備は持って行っていたんですよ。灰島君と相談してね」
マスターの言葉にユキは灰島を見るが、彼は否定せずコーヒーを口にした。
「灰島君や瀬尾君ほど早い段階ではありませんが、私もヘルハウンドがいることには気が付きました。彼がどのような指令を受けてあの場に居たのかもね」
マスターの言葉に、ヘルハウンドは少しだけ驚いたような顔を見せた。
「彼が150階の壁を爆破した時、同時に私は自分のいた階の壁も破壊しました。そこから下に飛び降りるのは明白でしたから」
「ま、それは誰でも思いついちゃうよね」と茶化すような瀬尾の声だが、マスターは気にすることなく「えぇ」と返す。
「なので急いで小型のウィンチをセットしました。そして、それに光学迷彩を施した特殊な回収ネットをセットして待っていたってわけです」
「……それ、外したらやっぱり俺は死ぬじゃないか」
ヘルハウンドの言う通り、上から落ちてくるものをネットを射出してキャッチできる確率はどのくらいだろうか?
「生きてるんだから文句言うな」
「言うわ! こんな爺さんをお前は良く信頼したな!?」
「お前より信頼できる」
こんな二人のやり取りを、瀬尾は「うんうん、仲良しだねぇ」と楽しそうに見学するだけ。
そしてユキと玲奈も楽しそうに彼らの会話を聞きながら、ティータイムを楽しんでいた。
こんな気の抜けた雰囲気の中、『ピンポーン』と間の抜けたチャイムが響いた。
灰島、瀬尾、ヘルハウンドの三人が、即座に、戦闘態勢に入る。 だが、マスターだけ慌てることなく、「やれやれ」といった表情で立ち上がった。
「……時間のようですな」
彼が分厚い鉄の扉を開ける。 そこに立っていたのは、地味なスーツを着た、一見するとどこにでもいるような中年の男だった。だが、彼の背後には同じスーツを着た、隙のない動きの男たちが数人控えている。
その男は、部屋の中にいる灰島たちには目もくれず、まっすぐにマスターの前へと進み出た。そして、帽子を取り深々と頭を下げる。




