ファントム、立ち上がる9
その、瞬間だった。
世界中の、ありとあらゆるモニターが一斉に、ほんの一瞬だけ、暗転した。 バベルゲートで戦う兵士たちの戦術ゴーグルも、東京の街を彩る巨大なデジタル広告も、世界中のトレーダーが睨みつける金融市場のディスプレイも。
全てが一瞬だけ、沈黙した。
そして全ての画面に、ただ一つのシンプルなロゴが映し出された。
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AEGIS
- SUNSET PROTOCOL : EXECUTED-
次の瞬間、全てのモニターは何事もなかったかのように元の表示へと戻った。 だが世界はもう、元には戻らなかった。
「……なに……? 何が起きたの……?」
セレスティーナが、呆然と呟く。 その問いに答えたのは、全てのインカムに、突如として割り込んできた、暢気な声だった。
『やれやれ。聞こえるかい、マダムに、CIAのヤンキーども、それと、哀れなテロリストさん』
瀬尾の声だった。
『たった今、あんたたちが、喉から手が出るほど欲しがってた女神様は、天に召されたよ。AEGISは、死んだ。もう、進化することはない。そして、『鍵』だった少女は、ただの少女になった。あんたたちの戦争は、もう、何の意味もないガラクタの奪い合いだ』
その言葉に、戦場の動きが一瞬止まった。
だが、セレスティーナの思考は、すぐに次なる欲望へと切り替わった。
「……なら!」
彼女の怒りに満ちた声が響き渡る。
「せめて、その原因を作った小娘と、プロメサーだけでも我が手に! 全員、捕獲しなさい!」
AEGISを失った今、その構造を最もよく知るプロメサーと、元・生体キーであるユキの価値は、計り知れない。
MI6の動きに呼応するかのように、CIAも同じようにプロメサーに襲い掛かった。同時に、部隊の3分の1ほどが階段を上っていく。
「ユキ! 聞こえるか!?」
インカムから響く灰島の声に、ユキは、真っ白な仮想空間から、一気に現実へと引き戻された。
目の前には、銃声と怒号が飛び交う、まるで戦場。耳元では、玲奈が「ユキちゃん、しっかりして!」と叫んでいる。父との、あまりにも穏やかだった最後の会話に、彼女の瞳から涙がとめどなく溢れ出した。
「……パパ……」
「泣くのは後だ! 敵がその階層に上がってくる!」
非情とも思える灰島の命令だが、現状、感傷に浸っている時間はない。
「隔壁を閉鎖しろ! 奴らを、この上には上げるな!」
「──わ、分かった!」
ユキは手の甲で涙をぬぐい、目の前の端末に手を伸ばした。AEGISが機能しなくても、基本的プログラムはまだAEGISのままだ。だから簡単に操作できるはず、なのに──。




