ファントム、立ち上がる7
灰島のライフルが、確実にアンテナを貫いた。そのことに驚いて、シザーが腰を浮かせた、まさにその瞬間――。
ダーンッ!!
二発目の弾丸が、彼の手にある端末を、木っ端微塵に粉砕した。
「なっ……、ファントムか!!」
誰だ、などという間抜けな問いは出てこない。MI6もCIAもいるこの戦場で、これほどの芸当をやってのけるのは、彼しかいない。
アンテナと端末を失ったプロメサーを見て、MI6とCIAは、即座に動きを変えた。
「確保しろ! 腕や足など失っても構わん!!」
「プロメサーを捕獲しなさい! 生きていればそれでいいわ!!」
牙を剥く二つの組織に、寄せ集まりの傭兵では歯が立たない。
「撤収だ! 金が欲しければ最後まで私を守れ!!」
こうして、150階のフロアは更に混乱を極めた。
矛盾と過負荷に晒されたAEGISは、最後の望みを託すように、何度もユキへアクセスを試みた。だが、記憶メモリーを有していない彼女は、やはりキーとして認証できない。 シミュラクラから持ち込まれたウイルスと、認証できないキー。
度重なるエラーに、AEGISの機能が、ついに完全停止した。
その瞬間。
轟音も、閃光もなかった。 ただ、全ての時間が止まった。 荒れ狂っていた仮想空間の嵐が、嘘のように静まり返る。エラーコードの濁流も、『シミュラクラ』の断末魔も、AEGISの防壁も、全てが純白の光の中に溶けて、消えた。
何もない、無限の白。 その静寂の世界の中心に、一つの人影が静かに姿を現した。
「ユキ、君がこれを見ているということは、僕は君を残して、先に逝ってしまったんだね」
「パパ……」
ユキの目の前には、30代半ば、少し白髪交じりの白衣を着た、父・神崎博士が、優しい笑みを浮かべて立っていた。




