ファントム、立ち上がる6
『認証終了。すべてのアクセス許可します』
シミュラクラが、衛星の支配権を完全に掌握しようとした、まさにその瞬間。 その影から、本物のユキが姿を現す。
「AEGIS、私にアクセス許可を!」
そして、AEGISに自らの認証を要求した。
『警告。二つの、酷似した生体キー候補を同時に検知。認証プロトコルに、致命的な矛盾が発生』
システムは、混乱しながらも、より馴染みのある、ユキのパターンへとアクセスを試みる。
『警告。候補“ユキ”の、生体脳細胞との同期に失敗。キーとしての完全性を確保できません』
二重のエラー。
シミュラクラという偽物の出現と、本物であるはずのユキの機能不全。
AEGISは、自らの存在理由を揺るがす、前代未聞の矛盾に陥り、その思考を一瞬だけ、フリーズさせた。同時に、接続されていたシミュラクラも同じようにフリーズする。
「マスター、今よ!」
ユキの合図に、マスターは用意していた莫大なデータ容量を持つ、外部メモリの接続スイッチを入れた。ユキはその外部メモリを、忍ばせておいた『毒』ごとシミュラクラに無理やり接続させた。
『生体キー“シミュラクラ”を、正規キーとして再認証します』
混乱するAEGISは、突如として膨大な「記憶領域」を与えられた『シミュラクラ』を、暫定的に、正規のキーとして認証した。
それこそが、ユキが仕掛けたトラップ。 認証が完了した瞬間、記憶媒体に仕込まれていた『毒』が、ゆっくりとAEGISまでも犯していく。
けれどAEGISは、この世界における最高のセキュリティシステムだ。シミュラクラに持たせた『毒』、つまりはウィルスに気づかないはずがない。
『セキュリティ警告。認証キー“シミュラクラ”の根幹領域に、致命的なウイルスを検知。キーとしての完全性が崩壊しました。対象を、システムから永久に隔離します』
AEGISは、自らの手で、認証したばかりのキーを破壊し始めた。
プロメサーの端末の画面に、無情なエラーメッセージが表示される。
『SYSTEM CONFLICT. CONNECTION TERMINATED.』
「なっ!? どういうことだ!?」
画面には、ノイズ交じりのシミュラクラの姿。
エラーが起きたのは、今回が初めてではない。寧ろ、ここまでアクセスできたのは進化といってもいいのに──。
いや、アクセス速度をあげれば、次こそは完全に掌握できるかもしれない。
「再起動だ! アンテナをこっちへ! 設定を変える!」
この端末に入っているシミュラクラは、あくま一つのプログラムに過ぎない。アンテナが繋がっているサーバーには、無傷のシミュラクラがいる。ここが戦場でなければ、もっと慎重に、しかも確実にAEGISを掌握できるかもしれないのに。
「早くしろ! あと少しで神を手に入れ──」
その焦りが、プロメサー《シザー》に致命的な隙を与えてしまう。
ダーンッ!




