ファントム、立ち上がる5
「敵の狙いは、ボスと機材の確保だ! 殺す気はない! 恐れるな!」
傭兵部隊の指揮官が、的確な指示を飛ばす。
「陣形を組め! この場を、俺たちの要塞にするぞ!」
彼らの動きに一切の無駄はなかった。 数人が、フロアに置かれていた大理石のテーブルや、巨大な装飾用のプランターを、驚異的な速さでひっくり返し、ボスとアンテナの周囲に、即席のバリケードを築き上げる。
また数人は、スモークグレネードを投げ込み、MI6とCIAの視界を遮断。その煙の幕の中から、敵の前進を阻むための、正確無比な制圧射撃を叩き込んだ。
彼らは勝とうとはしていなかった。
世界最強の二部隊を相手にしていることを理解している。
目的は一つ。
契約金に見合うだけの「時間」を稼ぐこと。
プロメサーの雇った傭兵たちの強固な防御戦術を前に、MI6とCIAは決定打を欠いていた。迂闊に攻め込めば損害は必至。しかしプロメサーを殺すわけにもいかない。
「この状況、イライラするわ」
セレスティーナは爪を噛み、苛立ちを隠せない。
状況を打開しようにも、戦場は三つの勢力が互いを牽制しあう、恐ろしいほどの均衡状態に陥っていた。
「玲奈、問題はないか?」
インカムから聞こえるノイズ交じりの灰島の声に、玲奈は「大丈夫」とスタンガンのスイッチを切った。どさっと倒れる黒スーツのエージェント。
「熱源のダミーに、今のところ騙されてくれてるから、気配を消して近づけば簡単よ。それに、ほとんどの戦力がそっちみたい。少数だから私でも処理できるわ」
それは当然だろう。混乱したフロアを制圧した後で、ゆっくりと探せばいいのだから。
「油断はするな」
「了解。でも、うまくいくのかな……」
聞こえてくる激しい銃撃戦の音に、不安になるのは当然だろう。
「大丈夫だ、ユキを信じろ」
この戦いは、MI6やCIA、ましてプロメサーのものではない。彼女のものだ。
「……うん、そうだね。大丈夫、ユキちゃんは私が絶対守るから!」
返ってくる頼もしい声に、灰島は「頼んだ」と通信を切った。
そして、灰島は小さく息を吐き出して、ライフルのスコープを覗く。狙うのは、プロメサーが大事にしている、衛星を使用した専用通信回線のアンテナと、腕の中にある端末。
「MI6もCIAも、プロメサーをもう少し追い詰めろ。俺が狙撃できるまで──」
息を殺し、ファントムはその時を待っていた。




