ファントム、夜に駆ける5
「これはどういうことなの!? 一人の男に、ここにいるMI6のエージェントが完全に敗北だなんて!!」
管制室に、セレスティーナの激昂した声が響き渡る。モニターには、無力化されたエージェントたちと、もぬけの殻となった医療室が映し出されていた。
その混乱の中、戻ってきた瀬尾だけは、冷静に自分の端末を操作していた。
「まぁ、一人の男だけってわけではないみたいですよ?」
「何ですって?」
「これを、マダム」
瀬尾は、施設のシステムログをメインモニターに映し出した。そこには、異常なデータが羅列されている。
「電源遮断は内部制御。最後の隔壁は外部から開けられてる。明らかに外部からの干渉がある」
瀬尾は、攻撃の発信元を示す、追跡不能なデータ群を指さした。
「この攻撃パターン……、不規則で自己増殖する……自己進化型プログラム。ふふっ、間違いない。AEGISの鍵、ユキがやったんだ」
その言葉に、セレスティーナの怒りは、より恐ろしいものへと変わっていった。
「……なるほど。ネットワークを意のままに操る少女、ですって? もはや、ただの鍵ではないわね。まるで、女神じゃないの」
彼女の瞳に、獲物に対する、燃え盛るような独占欲が宿る。
「面白い。ますます、手に入れたくなったわ」
「でも、どうするんですか? ファントムは逃げちまったし。明朝の取引は、もう……」
「いいえ」
セレスティーナは、瀬尾の言葉を遮った。
「彼らは、必ず来るわ」
瀬尾は、まるでその言葉を待っていたかのように、同意した。
「でしょうね。プロメサーは、ユキの『シミュラクラ』を持っている。灰島は、それを放っておける性格ではないし、彼女も同様。結局、明日の『バベルゲート』で終幕ってわけだ」
「ええ。だから、私たちも、最高の罠を用意するの。失敗は許されないわ」
セレスティーナは、冷たく微笑むと、部下に新たな命令を下した。




