表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】コードネーム・ファントムの新たな日常 〜平穏を夢見る元諜報員は、なぜか国家規模の事件に巻き込まれる〜  作者: 桜瀬ひな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/81

ファントム、尋問される9


「しかし、なんでお手紙出したわけ? 場所は特定出来たんだから、訪問すればよかったのに」


 瀬尾の言葉に、セレスティーナは「そうね」と返す。


「でも、普通にお伺いしても入れてくれないでしょう?」


「そりゃそうだ」


 茶化すように瀬尾はそういうが、セレスティーナは気にすることなく続けた。


「だから、向こうから訪ねてもらおうと思って」


「……なるほど」


 彼女の意図を読み取ったのか、瀬尾はわずかに口の端を上げた。


「ちゃんと、逃げ道は用意してあげたんでしょ? 優しいマダムは」


「当然よ」


 セレスティーナは、椅子に縛られたまま意識のない灰島を一瞥すると、部下の一人に静かに命じた。


「『アルファチーム』に連絡。作戦を開始させなさい」


 セレスティーナの命令に、一つの画面から「Yes,Ma’am」とくぐもった声が返ってくる。


 その画面にはナイトビジョン特有の、緑を基調とした映像が映し出されていた。


 小さな衣擦れの音、そして声ではなく指で合図される作戦。


 そこは深い森の闇に包まれた丘の上にある、廃天文台。それはまるで巨大な墓石のようにすら見える。だが、その静寂は突如として破られた。


 いきなり響き渡る轟音。 天文台の周囲に張り巡らされた赤外線フェンスの一部が、指向性爆薬によって吹き飛ばされた。


「いつの間に手配したんだか。早いねぇ」


「待ってあげる理由が見当たらないわ」


 セレスティーナはそう言い、楽しそうに画面を見つめていた。


 画面には、国籍不明の戦闘服に身を包んだ武装集団が見える。彼らの動きは迅速だが、どこか荒々しい。銃の構え方、フォーメーションの組み方……、プロとして洗練されてはいるが、英国特殊部隊(SAS)のそれとは明らかに異なっていた。


「……アメリカのデルタか、あるいはCIAの特殊活動部かってところかな。みんな演技上手だね」


「プロメサーも、そう思ってくれるといいのだけど」


 見る限り、使用する武器もやり方もMI6とは全く違う。けれど、向こうも沈黙し続ける道理もなく、森の木陰から自動で展開されたセントリーガンが火を噴いた。激しい銃撃戦が始まるが、武装集団は天文台の本体には深入りせず、派手に銃弾をばら撒いては後退する、という不可解な動きを繰り返す。まるで、本気でここを攻略する気がないかのように見えただろう。


「そうだねぇ。こう思うんじゃないかな? MI6のメールの直後に、CIAの襲撃なんてタイミングが良すぎる。だが、あの動きはMI6ではなかった。まさか、私の居場所は、すでに複数の組織に割れているというのか? ってね」


 瀬尾の完璧な分析に、セレスティーナは満足げに微笑んだ。


「あなたの言う通りよ、クラブ。狐は巣穴の安全を疑い始めたわ。そして、疑心暗鬼に陥った狐を狩るのに、これ以上の好機はない」


 彼女は、瀬尾に向き直った。その瞳は、獲物を追い詰めた狩人のように、冷たく輝いている。


「今よ。もう一度プロメサーにコンタクトなさい」


「はいはい。で、なんて送るんだ?」


「こう伝えなさい」


 セレスティーナは、ゆっくりと、しかし絶対的な自信に満ちた声で言った。


「『どうやら、あなたにもうるさい客人が来たようね。アメリカもあなたの居場所を突き止めた。その要塞は、もはや安全な巣穴ではなく、あなたを閉じ込める棺桶よ。このままでは、いずれ狩られるだけ。……私の最初の提案、まだ有効よ。MI6と手を組み、安全な場所で『お話し』することが、あなたが生き残る唯一の道だ』と」


 それは、勿論罠だ。しかし、四面楚歌に陥った(と誤認している)プロメサーにとって、その罠は、蜘蛛の糸のように甘美な響きを持っていた。


 瀬尾は、にやりと笑いながらキーボードを叩き始めた。


「いいねぇ。プロメサーがどんなに武力を持っていてもCIAには勝てないだろうし、ロシアや北朝鮮と組むには危険すぎる。また対話のできるMI6なら、組んでもいいかな? とか思っちゃいそうだよねぇ」


 そう言われ、セレスティーナは満足そうな笑みを浮かべ、瀬尾の打つ文章を見つめていた。


 尋問室に、しばしの沈黙が流れる。モニターに映る天文台の映像は、再び静寂を取り戻していたが、その地下では、プロメサーが人生で最も困難な決断を迫られているはずだった。


 やがて、瀬尾の端末に、短い返信が届く。


『……分かった。取引に応じよう。場所と時間を指定しろ』


 セレスティーナはその返信を見て、意識のない灰島に歩み寄ると、その耳元で囁いた。


「残念だったわね、ファントム。あなたの仲間も、あなたの敵も、全て私の掌の上で踊るのよ」


 彼女は、「ファントム」と「プロメサー」というカードを手に入れ、勝利を確信したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ