ファントム、尋問される6
その声にモニターを見れば、日本地図の中で一か所、点滅する場所がある。
「日本、なのね」
「だろうとは思ってたよ。今、コクチョウは全員が監視下にある。動けばそいつがプロメサー、つまりは裏切者だって特定されちゃうからね。だから海外サーバーを経由しても、最後には必ず日本国内の、コクチョウの監視網の『外』にあるどこかからアクセスする必要がある」
セレスティーナは、黙って彼の説明の続きを促す。
「プロメサーほどのハッカーが使うのは、普通の回線じゃない。奴が利用するのは、コクチョウのシステムに繋がってはいるが、今はもう使われていない『ゴースト・ネットワーク』だ。例えば、何十年も前に作られた、古い学術機関用のサーバーとか、今はもう廃止された施設の気象データサーバーとか……、いわば、デジタルな廃墟さ」
瀬尾は、指でこめかみをトントンと叩きながら、まるで簡単なパズルでも解いたかのように続けた。
「ファントムが派手に暴れて、あんたたちの注意を引きつけてくれている間に、俺は『プロメサー』の今の居場所を追うのをやめた。代わりに、コクチョウの広大なサーバー群の中から、この『デジタルな廃墟』で、かつ微弱な、正体不明の信号を発している場所をスキャンしてたんだ」
彼は、にっと笑って、点滅するモニターの点を指さした。
「で、ビンゴってわけさ。場所は、多摩地区にある、閉鎖された大学の旧天文台のサーバー。そこが、裏切り者の巣ってことだ。ま、俺みたいな天才にかかれば、こんなもんよ」
その説明は、あまりにもロジカルで、説得力に満ちていた。セレスティーナは、モニターに映る点滅と、椅子にぐったりと拘束された灰島の姿を交互に見つめ、満足げに、そして残酷に微笑む。
「素晴らしいわ、クラブ。あなたは、本当に優秀な犬……、そうねナイトくらいにはなれたかしら」
彼女は、これで「プロメサーの居場所」と「ファントムの身柄」という、世界を動かす二つの最強のカードを手に入れたのだ。
「目を開けたぞ!」
医療班の一人の声に、二人とも振り向く。薄く目を開けている灰島だが、その焦点は定まらず、半開きになった口からは「ははっ」と笑い声が零れる。
「なかなかしぶといわね。治療に必要ならベッドをここへ運びなさい。でも必ず拘束しておくのよ、油断したらその喉、掻っ切られるわよ?」
くすくす笑いながら、セレスティーナは灰島を見下ろす。
「クラブ、プロメサーにお手紙を送って。我々はファントムを手に入れた。AEGISの鍵も直に手に入る。お話ししましょう、と。勿論、あの子にも伝わるように」
あの子、とは当然ユキのことだ。
「了解、ま、どうせあの子の頼みの綱はファントムだ。こっちがわざわざ教えてあげなくても、探してると思うけどね」
そう言いながら、瀬尾はまたキーボードを叩き始めた。




