ファントム、尋問される5
「その言葉、忘れないでよ?」
瀬尾はにこりと笑うと、ゆっくりと灰島に近づいていく。焦点の合わない灰島の瞳が、一瞬、瀬尾を捉えたような気がした。瀬尾は、誰にも聞こえないほどの声で、ただ一言だけ、呟いた。
「悪いね、相棒……」
そして、彼は灰島の首を左手で固定し、その首筋に躊躇なく注射針を突き立てた。 三度目の自白剤が、容赦なく灰島の体内に注入される。
「ぐっ……ぁ……!」
今度こそ、抵抗は不可能だった。 強烈な薬物が神経を乱暴にかき回し、意識が真っ白な光の中に溶けていく。身体の自由も、思考の自由も、全てが奪われて──。
がくんと落ちる頭、椅子ごと倒れそうなところを、「おっと」と瀬尾が支えた。
「オーバードーズ、だね」
完全に意識は無くなり、ピクリとも動かなくなってしまった。その状況に、セレスティーナは舌打ちする。
「仕方ないわ、なんとか元に戻してちょうだい。最悪、息さえしてればそれでいいわ」
まるで暴君のような彼女だが、医療班は自分たちの使命を全うしようと彼の拘束を外そうとしたとき、瀬尾は「待った」と制止した。
「そいつが正気に戻ったとき、医療班で対応できるのか? まぁ、傍にエージェントを何人かつけとけば安心だけどさ」
元の椅子に戻ってキーボードを叩き始める瀬尾に、セレスティーナは「そうね……」と少し考えて、紅い唇の口角を上げた。
「なら、ここで治療しましょう。クラブ、あなたが見張って」
「はあ!?」と嫌そうな顔で振り返る瀬尾の顔に手を添え、にこりと笑う。
「エージェントはみんな忙しいの。あなたならファントムを止められるでしょう?」
「いや、俺、殺されちゃう方だと思うけど?」
「そんな簡単には復活しないし、彼だって死に目くらいは知り合いに看取ってほしいはずよ?」
彼女の発言は撤回されない。だから、瀬尾は両肩をすくめ「はいはい」と返し、PCの前に戻ると走らせていたプログラムを見て、口の端を上げタンっとエンターキーを押した。
「はい、見ーつけたっと」




