ファントム、尋問される3
セレスティーナの唇が、冷たい命令を紡いでいく。
「最新の『お薬』を持ってくるように。彼のその固く閉じた口が、私とおしゃべりしたくてたまらなくなるようにしてあげるわ」
何もない部屋に、医療用の機材が運び込まれた。
白衣の着た人間の手には、注射器。
そして、最新の自白剤が灰島の腕に注入された。それは意識を曇らせる薬ではない。逆に、脳を研ぎ澄まし、嘘をつくための理性だけを削ぎ落とす。
じわり、と身体の奥から熱が広がる。思考が、妙に澄んでいく。まるで精神が丸裸にされていく感覚に心地よさを感じる。
「さて、もう一度聞くわ、ファントム。ユキの隠れ家はどこ?」
セレスティーナの声が、やけにクリアに、頭の中に響く。口を開けば、知っていることを全て話してしまいそうな、危険な衝動。灰島は、ただ固く口を閉ざし、その衝動と戦っていた。
「……まだ抵抗するの。本当に、可愛げのない男」
セレスティーナは、呆れたようにため息をつくと、部下に命じた。
「『クラブ』をここに」
数分後、尋問室に連れてこられたのは、フードを目深に被った瀬尾だった。彼は、縛られた灰島を一瞥すると、すぐに目をそらした。
「止めてくんない? 俺、視線だけで殺されちゃうわ」
「ふふ、可愛い猫ちゃんね。私が助けてあげるわ」
セレスティーナは瀬尾の頭を撫でつつ、そのフードを取った。露わになった瀬尾の顔を、睨みつける灰島。その状況にセレスティーナは薄く笑う。
「あなたが言った通り、ファントムは口を割らない。だから、あなたに働いてもらうわ。この部屋に端末を用意するから、あなたが作った『タルタロス』の痕跡を辿って、今すぐ『プロメサー』にコンタクトを取りなさい」
「無茶ですって。ファントムに睨まれながらそんな作業、出来るわけないでしょ?」
瀬尾は、わざとらしくぼやいた。
「PCのスペックと最高の通信速度があれば出来る、と言ったわよね? それとも、受け取った報酬を返したいのかしら?」
セレスティーナがぱちんと指を鳴らせば、持ち込まれる機材。それは瀬尾の目から見ても、かなりのハイスペックな代物だった。彼女の冷たい視線に、瀬尾は「はいはい、やればいいんでしょ?」と悪態をつき、端末に向かった。
その、瀬尾の後ろ姿を見ていた灰島が、初めて、朦朧としながらも口を開いた。
「……金に魂を売った犬が。新しい飼い主の命令は、よく聞くんだな」
その言葉に、瀬尾の肩がわずかに震え、セレスティーナの目が、愉悦に細められる。
「あら、やっとおしゃべりする気になったのね。そうよ、ファントム。彼は、あなたと違って、とても優秀な『犬』よ」
「猫でも犬でもいいけどさ。どうせなら騎士とか、もっと格上げしてくんない?」
軽口をたたきながらも、凄まじい速度でキーボードを叩き続ける。
「それでも、コクチョウか……?」
その言葉に、瀬尾の指が止まった。
「コクチョウだねぇ。ってか、そこを辞めたがってるお前はなに? それを俺に言う資格なんて無いと思うけど?」
「売国奴よりマシだ……、このクズが」
「クズで結構。愛国心で金は稼げないからねぇ」
灰島は瀬尾の受け答えに、珍しく苛立った表情を見せた。
「……こいつは、また裏切るぞ?」
灰島の態度にセレスティーナの唇が、ゆっくりと弧を描いた。




