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【完結】コードネーム・ファントムの新たな日常 〜平穏を夢見る元諜報員は、なぜか国家規模の事件に巻き込まれる〜  作者: 桜瀬ひな


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ファントム、作戦失敗する3

 着地と同時に、彼の手の中で愛用のコンパクトピストル、H&K USP Compactが滑るように現れた。乾いた発砲音が3度響き、後方の追跡車両のフロントガラスを蜘蛛の巣状に砕き、エアバッグを誤作動させる。


 コントロールを失った車両はスピンし、後続車と激しく衝突、橋の上は見事な玉突き事故現場と化した。


 MI6のエージェントたちが、事故車両を盾に応戦を開始する。その中の一台、装甲バンの後部ハッチが開き、中からエージェントがライフルを取り出すのが見えた。狙いは、橋の向こうへ疾走していくマスターたちのバンだ。


「させない」


 灰島は銃撃の弾幕を駆け抜け、装甲バンに接近。煙幕弾で敵の視界をくらませた隙に、バンに乗り込むと、ライフル兵を瞬時に無力化し、ライフルを奪い取った。


 だが、最大の脅威は依然として上空にいる。攻撃ヘリ『AW109』が、7.62mm汎用機関銃ポッドを灰島に向け、銃弾の雨を降らせていた。


 灰島は、破壊された車両の残骸を盾にしながら、奪ったライフルを構える。


 ヘリが一瞬ホバリングし、狙いを定めようとする、コンマ数秒の好機。彼は、機体のバランスを司るテイルローターに照準を合わせた。


 まさに、彼が引き金を引こうとした、その瞬間。 背後の、全く別の角度から、別のライフルの銃声が響いた。灰島はその殺気を察知し、コンマ数秒の反応で身を捻る。しかし、高速で飛来する弾丸は完全には避けきれず、彼の脇腹を深く抉った。


「ぐっ……!」


 激痛が全身を駆け巡る。だが、彼は歯を食いしばり、崩れ落ちそうになる身体を意思の力で支え、体勢が崩れる寸前に、ライフルの引き金を引いた。 放たれた弾は、狙い通りヘリの尾部に命中し、テイルローターを損傷させた。コントロールを失ったヘリは、戦線を離脱していった。


 マスターは、灰島の決死の行動に応えるように、中央分離帯へと大胆に舵を切った。対向車線は、先ほどの交通規制のおかげでかなり少ない。ヘッドライトをハイビームにし、迫りくる対向車をギリギリを、信じられない速度で駆け抜けていく。


 わずかな判断の遅れが、即座に死に繋がる、まさに紙一重のドライブテクニックだった。


 橋の出口が見えてきた。だが、そこには瀬尾の別動隊がコンテナトレーラーで物理的なバリケードを築きつつあった。


 完成まで、あと数秒。


「つかまって!」


 マスターの声に応え、玲奈もユキも、シートベルトや座席を掴んだ。次の瞬間、バンだというのに片輪を浮かせ、わずかにまだある隙間をすり抜ける。


 ダンっと4輪でアスファルトを掴んで加速をするが、後ろを見れば同じようにMI6の車も隙間をすり抜け追ってきた。


「玲奈、例のものを!」


 マスターが叫ぶ。


「はい!」


 玲奈は、後部座席のハッチを蹴り開けると、風雨に身をさらしながら、ケースに詰められた無数の黒い金属片を掴んだ。それは、マスター特製の、アップデート版の撒菱だった。


「今です!」


 マスターの合図で、玲奈はタイミングを計り、金属片を後方の路面にばら撒いた。


 瀬尾の別動隊の車両が、次々とそれを踏みつける。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 けたたましい破裂音が、夜の橋に連続して響き渡る。感圧式爆弾が炸裂し、タイヤを破壊された車両はスピンしながらガードレールに突き刺さったり、衝突はしなくとも、全ての車両が走行不能に陥った。


「……なにあれ」


 走行不能の車から無傷の瀬尾は降り、走り去っていくマスターの車を見送った。


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