表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コードネーム・ファントムの新たな日常 〜平穏を夢見る元諜報員は、なぜか国家規模の事件に巻き込まれる〜  作者: 桜瀬ひな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/75

ファントム、隠し子現る5

「もうすでに私という生体キーが存在することが世界中にバレてしまった。反政府組織は私のデータを集め始めてるし、アメリカやイギリスも私を狙い始めているわ。当然よね、自国の防衛システムの根幹を揺るがす存在だもの。CIAもMI6も、動き出してる」


 彼女の能力は、すでに各国の諜報機関の動きさえも捉えていた。灰島が外を警戒していたのは、その気配を肌で感じていたからに他ならない。


「敵は、中東のテロリスト、アメリカ、イギリス、そしてコクチョウの裏切り者……。世界中が、私を欲しがってる。ある者は『兵器』として、ある者は『危険因子』として排除するために、そしてある者は……、世界の新しい『神』になるために」


 ユキはそこで言葉を切り、力なく笑った。


「逃げ場なんて、どこにもないの」


 絶望的な告白だった。四面楚歌。いや、全世界が敵と言っても過言ではない。一個人が、ましてや少女一人を連れて立ち向かえる相手ではない。マスターの隠れ家も、その気になれば数日で特定され、包囲されるだろう。


 マスターは、黙ってウィスキーのボトルを手に取ると、自分と灰島のグラスに琥珀色の液体を注いだ。


「……さすがにすべてを理解した、とは言えませんが。いや、とんでもない『縁』を引き当てたのは理解しました」


  彼はそう呟くと、グラスを一気に呷った。そして、静かに灰島を見据えた。


「さあ、どうしましょうか? 両手を上げても誰も見逃してくれそうにもありませんけど、私としては出来る限り足掻きたいものです」


 隠れ家が、再び静寂に包まれる。 ユキの絶望。マスターの覚悟。その全てを受け止めるように、灰島はゆっくりと顔を上げた。その目に宿っていたのは、諦めではない。かつて数多の戦場を潜り抜けてきた、冷徹な暗殺者の光だった。


 彼はマスターが注いだウィスキーには手を付けず、静かに口を開いた。


「方法は、三つある」


 その声に、ユキとマスターは息を呑んだ。


「一つ、『ノイズ』になる。信用できるだろうコクチョウ時代の知り合いとユキの力で、彼女のものと酷似した量子パターンを持つデコイ情報を世界中に拡散する。敵の情報網を飽和させ、混乱させる。我々の正確な位置を特定させず、時間を稼ぐ」


 この場合、クラブこと瀬尾を完全に信用したことになる。今のところ、彼は味方のようだが、本当に味方なのか? そこは100パーセントの確証はない。


「二つ、『オフライン』になる。この国のどこかにある、あらゆる電磁波、あらゆる量子観測から遮断された『聖域』に逃げ込む。知り合いにも頼むが、マスター、あなたの力も借りたい。だが、これは時間稼ぎにしかならない」


 灰島はそこで一度言葉を切り、ユキの瞳をまっすぐに見つめた。


「そして、三つ目」


 彼は、まるでチェスの駒を進めるように、静かに、しかし残酷な言葉を紡いだ。


「敵同士を喰わせる」


「……どういう意味?」


 ユキの問いに、灰島は氷のように冷たい、しかし確信に満ちた声で答えた。


「敵が欲しがっているのは、ユキ、お前本人だけじゃない。裏切り者は、お前をコピーするための『レシピ』を完成させようとしている。他の連中も、いずれその事実に気づく。そうなれば、彼らはリスクを冒してお前を攫うより、より安全な『レシピ』の奪い合いを始めるだろう」


 灰島は、まるで盤上の駒を動かすかのように、ゆっくりと言葉を続けた。


「ならば、くれてやるんだ。彼らが喉から手が出るほど欲しがる、『最高の餌』を」


 彼の言う「三つ目の方法」、それはあまりにも大胆不敵で、悪魔的な計略だった。


「作戦名は、そうだな、『プロメテウスの火』。我々は、神々の火(AEGISの支配権)を盗み出そうとする人間たちに、偽りの『火』を与える。そして、その火で互いを焼き尽くさせるんだ」


 まるでゲームの話でもするかのように話す灰島だが、ユキは首を振る。


「そんなうまくはいかないわ。その火は誰にとっても危険なのよ」


「そうですね、そして一番危険にさらされるのはユキくん、ということになるのでは?」


 マスターの言葉にユキはびくっと肩を揺らし、灰島は静かに頷いた。


「その通りだ。けれどこちらが無傷ですむような生ぬるい相手ではないのも事実。ユキ、この作戦にはお前の力が必要だ」


 そう言い切る灰島に、マスターは「駄目ですよ」と間に入った。


「こんな小さなお嬢さんにそんな重責を負わせては──」


「彼女は少なくとも二十歳は超えている」


 驚くマスターだが、ユキはうつむいたまま反論しない。


「以前会ったときから彼女は1ミリも成長していない。――それが何を意味するかは、見ての通りだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ