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ファントム、城を借りる2

 そこは店舗からも近く、歩いて十分ほどの、静かな住宅街の一角だった。


「こちらが先ほど紹介させていただきました物件でございます」


 まどかの意気揚々とした声とともに、あけ放たれるドア。開けた瞬間、南向きの大きな窓から、そしてフローリングに反射した光が灰島の目を襲った。


「窓開けますね」


 今は初夏。普通に歩く分には申し分ない季節だが、締め切った部屋の中はこの陽気でかなり温度が上昇している。そのぬくもった空気を心地よい風がさらっていった。


「こちら、リビングとダイニングがひと続きでして、そのためお部屋も広く感じられると思います」


 彼女の言う通り、独りで暮らすにはもったいないくらいの空間がそこにはあった。


「キッチンも最近は自炊される方も多いので、2口のIHを備えております」


 彼女のいう通り、簡素ながらしっかりとしたキッチンに備え付けの棚は便利そうに見える。


「……これでは部屋が丸見えですね」


 ここの住宅地の端、そのため目の前の道は行き止まりで不審者を見つけるには申し分ないが、その道から1階にあるこの部屋は隅の隅まで見えてしまう。


「ですが窓が小さくなると折角の日当たりがもったいないですよ。カーテンなどで目隠しをされることをお勧めします」


 なるほど、と思いながら灰島は窓に近づいた。窓から道路までの障害物は何もない。この先は行き止まりだ。だが背後は小高い山に繋がっており、身を隠すには都合がいい。けれど、と彼は窓から少し上方に目を向ける。


 この部屋を狙撃できるとしたら、2キロほど離れたあの高層ビル。通常スナイパーの狙撃距離は600メートルから1200メートルほど。けれど、M107セミオートマチック式スナイパーライフルの射程距離はおよそ2000メートル。とはいえ、一発で仕留めるにはかなりの腕が必要だ。勿論、彼にはその腕があるからこそ悩んでいるのだが。


「お気に召しませんか?」


「……この窓、二重ではないのですね」


「え? あ、何しろもう築15年ですから。ですが、最近はDIYで内窓も作れますから、試してみてはいかがでしょう」


 なるほど、と灰島は頷く。どうせなら、防弾ガラスにしようと心の中で考えながら、玄関のドアを見た。


「こちらは二重ロックなのですね。しかもディンプルキーなのはいいですね」


「ですよね」と嬉しそうに答えるまどかを横目に、灰島は軽く壁を叩いた。指の感覚、そして跳ね返ってくる音からして、防音効果は低い。


「この建物は重量鉄骨ですので、強度は問題ないと思います。軽量鉄骨ですと、お隣さんの生活音や上の階の方の足音なんかも聞こえますが、そこはしっかりしてますので」


 一般住宅ではこんなものかと、今度はコンセントを見つけた。ジーンズのポケットからスマホを出し、アプリを立ち上げる。


 そのアプリで盗聴器がないことを確認し、ぐるりと見回す。このメガネは特殊で、赤外線照明を発見することができるのだが、どこにも隠しカメラも見つからない。


 及第点、と言っていいだろう。


「あの、他にもお見せできる物件がありますがご覧になりますか? ここから15分ほど歩きますが」


 そう言いながら、まどかはファイルを開いた。


「こちらは3階になりますが、下にはコンビニがありまして人気の物件なんです」


「……不特定多数の人間が24時間出入りする、ということですね」


「す、すみません! そうですよね! 防犯上よろしくないですよね! えと、それでしたら──」


「ここにします」


 とりあえずここでいい、そう思いながら灰島は窓から見える高層マンションを見つめた。


──住人の調査をしておくべきだな──


 こんなことを考えているとはつゆ知らず、安西まどかは内心でガッツポーズをしながらも、顔には満面の営業スマイルを貼り付ける。


「ありがとうございます! それでは、お店に戻ってご契約の手続きをいたしましょうか」


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