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ファントム、ミッション実行する3

「ああ。お前なら正規ルートで、かつ迅速に警察を動かせるだろう。俺がやると足がつく可能性がある」


「俺はコクチョウの諜報員だぞ! 大麻栽培の匿名通報係じゃない!」


 瀬尾の抗議も、灰島には全く響かない。


「データは全てここにある。4つの栽培拠点、関係者の全情報、横流しの証拠まで。これを組織犯罪対策課の然るべき部署に渡すだけだ。お前にとっては、大した手間ではあるまい」


 灰島は淡々と告げる。その声には、有無を言わせぬ響きがあった。瀬尾は、かつて数々の作戦で彼の隣に立った時のことを思い出す。この男が一度決めれば、それはもう覆らないのだ。


「ってか、お前なら俺に頼まなくても方法は色々あったろ?」


 基本、諜報員はグループで動くことを義務付けられている。けれど、ファントムだけは例外で、単独行動を許されていた。それは、彼にそれだけの実力と信頼があることを示している。


「そうだな。でもその案は時間がかかるから却下した」


「……それ、聞いても良いか?」


 あのファントムが考えたミッションだ。知りたいと思うのが普通の諜報員だろう。


 灰島は「別に構わんが」と、考えたミッションを瀬尾に話した。


「一応、これが一番候補だったがこれ以外にも10通りほど考えたんだが──」


「ちょっと待て。お前はここで世界戦争でも起こすつもりだったのか!?」


「いや、そこまでは」と言って頭を掻くから、「褒めてない!」と瀬尾は叫ぶ。


 けれど、彼が本気になれば世界戦争は起こせるし、この世界を真っさらにすることも可能かもしれない。


 そうならなかっただけでも、この世界は幸運だった。


「まぁ、やることはわかった。この辺の情報屋にこれを流して、こいつらを燻り出せば良いわけだ」


 それ自体は、難しいことでもなんでもない。なんなら電話一本で解決するような案件だ。なのに、灰島は「いや」と口にする。


「できれば、メンバーのDとEに接触して、こいつらからの密告ということにしてくれないか?」


「はあ? それなんの意味あんの? もしかしてどっかの議員のバカ息子か?」


「いや、一般人だが、こいつらは闇バイトで騙されて働かされてる。最近はどうしたら抜け出せるか、そればかり二人で相談し合ってる。二日後に大口の取引があるから、それをネタに誘導すれば簡単に自首するはずだ」


 もはや呆れることすら通り過ぎて、阿保らしくなってくる。


「あのな、闇バイトって……。そんなもんに引っかかる馬鹿は何回でも騙される。勝手に自滅してさせ──」


「その報酬として、お前が困ったときはいつでも手を貸そう」


 俺が出来る範囲でな、と付け加えたが、その範囲の限界が無い人間の手を借りれる権利が今、瀬尾の手の中にある。この誘惑に、勝てる人間がいるだろうか?


「……分かったよ」


 瀬尾は観念したように大きなため息をつき、USBメモリをひったくるように受け取った。


「これで貸し一つだからな、ファントム」


「灰島だ」


 間髪入れずに訂正され、瀬尾は呆れるしかない。その名前だって、彼の本当の名前ではないのだから。


「その名前、気に入ってんの?」


「別に。最後の任務の時に与えられた名前だ」


 先祖代々、引き継いだ名前でもなければ、親にもらった名前でもない。それでも、彼は『ファントム』よりも『灰島平太』を選んだのだ。


「……じゃあな、灰島」


 瀬尾はそう言うと、音もなく部屋から姿を消した。灰島は、ローテーブルに残されたお茶を静かに片付け、またいつもの日常へと戻っていった。

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