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ファントム、ミッション実行する2

「いやいやいや、お前の問題じゃなくね? ただの騒音問題だろ? それなら管理会社に訴えるとか、警察に相談するとかが普通でしょうが?」


 確かにその通りで、それが普通の解決の仕方だが、灰島は首を振る。


「管理会社や警察では、根本的な解決にはならない。生活音と判断されれば、それ以上は踏み込めない。彼らが完全にこの町から去らない限り、大貫さんの睡眠妨害は続くだろう」


「だからってお前が対処するような問題か? 別に日本経済が大打撃を受けるわけでも、隣国から攻め込まれるわけでもない。ただの騒音! 一個人が困ってるだけ! なに? お前、何か報酬でももらえるわけ?」


 投げやりな瀬尾の言葉だが、灰島は思い出したように「あぁ」と声を上げた。


「大貫さんにフルーツサンドをご馳走になった。これは報酬の前払いとも言えるな」


「言えるか! どんだけ格安ミッションだ! 格安大売出し過ぎでしょ!?」


「そうか? なかなか美味しいフルーツサンドで」


「そこじゃない! てか、お前、本気か? 大麻の栽培なんて、別に珍しくもない。俺たちのいた世界では、そこかしこにあっただろう? そんな大麻輸送の騒音くらいで……」


 海外のマフィアとの裏取引をしたこともあれば、時にはあるマフィアを完全制圧したこともある。そういう世界にいたのに、今の彼はご近所の騒音問題に真面目に取り組もうとしているのだ。


「そいつらがいずれ、この街にもっと深刻な問題をもたらすかもしれない。俺はそれを止めるためにそいつらを排除しようと思う」


 まるで世界戦争でも止めるような言い方に、瀬尾は呆れるように笑った。


「排除って、どうやってだよ? まさか、俺たちが出向いて、そいつら皆殺しにするのか?」


 これまでのミッションなら、そういうのもありだろう。コクチョウの諜報員には治外法権がある。その代わり、コクチョウの誰が死んでも国は関与しない、それがルールだ。


「そこまでの必要はない。というか、俺はもうコクチョウではないし、そんな権限もない」


「……そうか」


 そうであれば、盗聴器も住宅侵入も罪に問われるのだが、そこは見なかったことにしよう、と瀬尾は思った。


目の前にいる男は、あの『ファントム』なのか?


 これまで数々の伝説を作り上げた諜報員エージェント。日本からの輸出品による核兵器の製造ラインを破壊、ついでに中東の反乱軍に流れるところを阻止、さらには殺人ウィルスの流出こそ許したが、そのワクチン情報を入手し拡散を防ぎ、つい先日はアメリカ大統領の暗殺を阻止した。


「だから、頼む」


 そんな彼がまるで今日の夕飯の買い物を頼むかのような気軽さで、瀬尾にUSBメモリを差し出した。


「……本気か? お前、こんなご近所トラブルを解決するために、俺を呼び出したのか?」


 瀬尾は信じられないといった表情で、灰島とUSBメモリを交互に見る。

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