09
体を投げ出して地面を転がることで、叩きつけられた槍が直撃することだけはなんとか避けられたが……完全には避けることが出来ずに穂先が右肩を掠められてしまい、肩から血がしぶいた。
「痛っ!?」
ゴロゴロと何回か転がったところで、無事だった左手を使って体を跳ね起こすが、また別の賊が剣を振りかぶりながら突進してきた。
「しぶとい! だが、コイツで終わりだっ!!」
「三人目……」
突っ込んで来る賊を見て、ボクは小さく呻いた。
躱すだけならまた転がればなんとかなるが、流石に他の二人がその隙は見逃さないだろう。
剣か槍でさらなる深手を負わされるか、馬で踏み潰されるか……どれもごめんだ!
「やぁっ!!」
まだ捨てていなかった折れた剣を左手に持ち替えると、突進してくる賊めがけて投げつけた。
「クソっ!? マジでしぶてぇな!」
投擲の練習なんてしたことないから狙いも威力も甘かったが、辛うじて賊に直撃するコースに飛んでくれた。
賊は悪態付きながら剣でそれを薙ぎ払い、そのお陰で離脱する隙が出来た。
「……さぁ、どうする?」
一先ず離脱は出来たが……ここからどうするか。
武器は無くなってしまったし利き手に負傷もした。
まだ隠し玉はあるが、使えるのは一度程度だ。
ボクは一瞬だけ村の方にチラッと視線を送って、距離と方角を確かめた。
こうなったらいっそ村に引き返して、籠城しながら適当なタイミングで子供たちを担いで逃げ出そうか。
そんなことを本気で考えていると。
「覆面の君! こちらまで来るんだ!」
ボクを呼ぶ声が草原に響いた。
声がした方を見ると、兵の一人が剣か槍か……ここからでは確認出来ないが、ソレを腰だめに構えている。
ボクの中ではすっかり存在感を失っていたが、彼らはまだ戦意を失っていなかったらしい。
村の建物の屋根から見た時は賊たちに取り囲まれていたが、いつの間にか押し返していて多少は間合いが出来ていた。
彼らが相手をしているのは商隊の荷馬車に潜んでいた連中なのか、馬には乗っていない。
「そっちの方がマシか!」
何かヤル気みたいだし村を巻き込むよりはマシだろうと、ボクは迷わず彼らの方に向かって走り始めた。
「おい! 兵共が何かやろうとしてやがる。合流させるな!」
「豆殻の足を止めろ!」
背後から兵たちの方にいる賊たちへバカでかい声で指示が飛んだ。
何かやろうとしている兵たちの妨害に向かっていた賊の内の三人が反転してこちらに向かって来る。
「余計なことを……っ!! 三人か……」
兵たちの方を見ると、阻止に向かって来る賊の相手で手一杯でこちらにまで手を回す余裕はないようだ。
いくら三人だからって、徒歩の三人なら無手のボクでもどうにか出来る。
だが、背後から馬に乗った賊も迫っているしグズグズしてられない。
「こうなったら!」
足にさらに力を籠めると、全力で地面を蹴って目の前の賊たちを飛び越えた。
「なっ!? コイツ魔力もちか!」
走る速さはともかく、頭上を飛び越えたその跳躍力に賊たちは驚いているが、すぐに切り替えている。
「逃がすな!!」
「食らえっ!」
剣やナイフを投げてきたのがわかった。
地上で正面からなら弾き返せても、今は無防備に背中を晒している。
「ぐぅっ!」
背中や腰に鋭い痛みが走るが……。
「くっ……まだ走れる!」
転倒しそうになるのを堪えて兵たちの下に向かって走っていく。
彼らと対峙している賊もいるが、包囲はまばらになっているし間を抜けるのはここまでに比べたらなんてことはない。
「なっ!?」
「仕留めそこなったのかっ!?」
驚く賊たちの声を振り切って兵たちまでもう間もなくの地点まで来ると、「伏せろ!!」と鋭い指示の声が飛んで来た。
その声に、ボクは野球のヘッドスライディングのように前に向かって滑り込んでいった。




