86
唐突なジョンの言葉にジェイクも驚いているが、ボクだって驚いている。
「どういうことですか?」
「なんでアンタも驚いてんだよ……」
ジェイクが眉根を寄せてボクを見るが、「ボクも今聞いたからね」と適当に返事をして、彼と同じような表情でジョンを見る。
「それよりも街に行くって……どういうことですか? ラカンパの街ですよね? ボクが行ったのってあの一回だけですよ?」
一度は行ったことがあるとはいえ、街に入るその前からずっと馬車に乗ったままで、街に入ったら入ったで屋敷の中から外には一歩も出ていない。
ボクに何をさせたいのかはわからないが、ただの思い付きで街に行かせるってのは如何なものかと思う。
ちゃんと全部倒したとはいえ、つい先程魔獣を含む獣の群れに襲われたばかりだし、ボクが村を空けていいんだろうか?
……決して心の準備が出来ていないのに人が多い場所に行きたくないとか、そんな利己的な理由ではない。
だが、ジョンはボクの言葉に首を横に振ると、話を続けた。
「素材の件を早めに街へ伝えた方がいいだろう。それに、街には爺様もいる。魔物の資料の閲覧許可を得られるぞ?」
閲覧許可の件を聞いてボクが「む……」と言葉に詰まったことを見たジョンは、「フッ……」と笑うと肩を竦めた。
「まあ、隠し事はなしでいこう。このひと月ほどお前は村から出ていないだろう? 群狼の件はそろそろ街にも広まって来たし、お前が果たして戦えるのかどうか……と不安視する者も出始めている」
「なるほど……」
ボクが団長の座を継いだから群狼戦士団は残ってますよ……ってことになっていても、団員は勝手に入った気になっているジェイクたちだけだ。
賊を倒したって話も知っているんだろうが、それでも実際に戦った姿を見た者はあの街にはいない。
この村の者たちだって今日までボクが戦う姿なんて見たことがなかったし、結構「なんなんだコイツ……」って視線は気付いていた。
それでも、村の問題児であるジェイクたちが従っているから、何となく受け入れられてはいたんだが……街の者たちからしたらそうはいかないだろう。
「ウチでも加工は出来なくはないが、街の職人の方が良い物を作れるし……アリスが構わなければ、それも持って行ってくれ」
「……ボクが手で持って行くんですか?」
イノシシの魔獣三頭分の内臓を担いでいくのか。
……凄いインパクトだろうな。
「村の者は……使えんか」
村の誰かに荷馬車を任せようとでも思ったんだろうが、ジョンは広場の様子を見て諦めたようだ。
「……屋敷の者に御者を任せよう。お前は荷馬車の護衛も兼ねてだが、どうだ?」
「それなら……まぁ」
確かにジョンが言うことももっともなことだし、倒した素材をボク本人が持って行くってのは、ラカンパの街への丁度いいアピールになるだろう。
ボクの返事にジョンは満足そうに頷くと、ジェイクにアレコレ指示を出すなり足早に屋敷へ戻って行った。
◇
あの後はすぐにジェイクは解体している場所に向かい、おばさんたちに事情を説明して、魔獣の内臓とついでに血液を樽に詰め込んでいった。
慣れているのか随分と手際が良く、思ったよりもずっと早く完了しそうだったので、初めはボクも見学するつもりだったが、それどころじゃないと慌てて準備に取り掛かることにした。
ボクが再び家から槍を持って来て、そして荷馬車の用意が完了した頃に、ジョンが数通の手紙を手に屋敷の前に出て来た。
何通も書いていたから時間がかかったのか……と納得しながら、彼からの説明を聞いてようやく出発だ。
「お嬢様……本当に乗らなくていいんですかい?」
「うん。一応護衛も兼ねてるし……すぐ側でしょう? 歩きで構いませんよ」
自分だけが馬車に乗っていることを気にするおじさんに適当に答えながら、一か月ぶりの街へと歩いて行った。




