85
住人の相手はジェイクが引き受けているとはいえ、そもそも彼らはイノシシとの戦闘について聞きたがっている様子だった。
ちょっとしたお祭り気分で盛り上がっているわけで、あのままだと多分またボクも囲まれそうだったし、あの場を退散することにした。
家に帰る……ってのはちょっと交流を拒否し過ぎているし、ジョンが行った負傷者を集めて治療をしている集会所に向かった。
集会所では、屋敷で見かけたことのある使用人たちが負傷者の介抱に当たっている。
ココのことを村と呼んではいるが……あくまでビーンズ家とそこの農場で働く者たちの集まりってだけだから、医者や診療所のような施設はない。
多少の医学知識を持った者がいるので、その彼が一応医者の役割を果たしているんだとか。
どうしようもない時は街に行くそうだが……街にいる医者も腕自体はそこまで大差はないらしく、薬でどうにかすることが多いそうだ。
そう考えると、賊と戦った時にお世話になった村への謝礼が薬だったってのも納得だ。
「来ていたのか。広場はもういいのか?」
負傷者と話していたジョンが、入り口側に立っているボクに気付き近づいて来た。
「広場は……アレ以上いると解体の邪魔になりそうだったので、ジェイクに任せて来ました」
ボクの言葉に、ジョンは窓の外に視線を向けた。
何となく広場の様子が想像出来たんだろう。
「……まあ、今年の春は村全体で騒ぐような機会がなかったし、仕方がないだろう」
ジョンは苦笑しながら小さく溜め息を吐いた。
彼の言葉に、ボクは「いつもは違うのかな?」と不思議に思っていると。
「いつもは群狼の連中が獲物を持って来るからな。その時に一緒に騒ぐんだよ」
「街に出ている者たちや、商人たちも酒を持ってきたりするからね。春の楽しみなんだよ」
治療を受けてベッドに寝かされていたおじさんたちが笑いながら教えてくれた。
その後揃って「イタタ……」と顔を顰めているし……。
「おじさんたちはココでお留守番なんですか?」
「いや、もちろん参加するよ。なあ?」
彼の言葉に、部屋中から声が上がった。
「……骨が折れたりはしていないが、負傷したことに違いはないんだから飲み過ぎるなよ?」
ジョンは彼らへ注意をしたが……当の彼らは「わかってるわかってる」と軽い調子で応えている。
それを受けて、今度は深々と溜め息を吐いた。
そして、何か言って欲しいような目で見て来るが、ボクは首を横に振る。
「まあ……そうだろうな。アリス、今日のこれからの予定は?」
「今日の? ……特に何もないですよ?」
解体の手伝いも断られたし、広場の騒ぎに交ざるのもちょっと遠慮したいし……場を冷ましかねないからと、一応顔は見せるつもりだが、出来ればこのまま家に戻ろうかな……と思っている。
ボクの言葉にジョンは頷いたかと思うと、「着いてこい」と部屋を出て行く。
何か頼みごとでもあるんだろうか?
◇
「親父? それに団長も。もういいのか?」
住人の相手が終わったのか、広場の手前の方に積まれている木箱の上に腰掛けていたジェイクが、ボクたちに気付いた。
今更だが、何だかんだで彼はよく周囲を見ている気がする。
村での振る舞いから評判は散々だったが、仕事そのものは結構真面目にやっていたのかもしれないな。
「アイツらは夜に宴に参加するつもりらしいが、飲ませすぎるなよ。それよりも、お前は酒は飲んでいないな?」
ジョンはボクたちが出て来た集会所を指して、運び込まれたおじさんたちのことを話すと、ジェイクに飲酒の有無を訊ねる。
そういえば他の人たちは盛り上がっていたが、彼がお酒を飲んでいる様子はなかったな。
「酒? ああ……俺もだし、団員にも飲ませてねぇぞ?」
「ならいい。これからアリスに街に向かってもらう。お前がその間村の警備を担当しろ」




