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ジョンが去っていき、ボクもジェイクも「どうしたら……」と困惑してしまったが、すぐに村人が話しかけてきたことでそれどころではなくなった。
ジェイクもボクのコミュニケーション能力の低さを薄々感付いていたようで、率先して間に入っては、ボクが必要以上に村人に囲まれたりしないように捌いている。
これまでジェイクと会話をするのなんて、朝の訓練時くらいだったし、そもそも会話なんて大したものでもなかったから気付けなかったが……意外と彼はコミュ力が高いのかもしれない。
……前世の不良たちもマンガとかだとコミュ力高く描かれていたし、そんな生き物なのかもしれないな。
「お姉ちゃん!」
輪の外からウチの子たちが手を振っている。
周りには村の子たちもいるし……。
「ジェイク、ソッチは任せるね」
ボクは「おいっ!?」と驚くジェイクを置いて子供たちの方に歩いて行くと、子供たちも駆け寄って来た。
ウチの子たちは当然として、村の子たちは大人と違ってそろそろボクにも慣れてきているのかもしれない。
「皆は何をしているの?」
男の子たちはバケツを持っているし……解体で出る血を流すために水汲みの手伝いでもしているんだろう。
問題は女の子たちだ。
エプロンのようなものを被っているが、まだ料理をしているわけじゃないし……解体は力仕事だろうから子供にやらせるとは思えない。
それに、もしやらせるなら男の子たちだよな?
一体彼女たちは何を……と聞きたかったんだが、男の子たちだけじゃなくて女の子たちも興奮しているようで、それぞれが元気にわめいていまいち要領を得ない。
首を傾げていると「その子たちは見学だよ」と、先程風呂に入っている間に出て行ったおばさんが、子供たちと似たような恰好で近付いてきた。
ただ、子供たちと決定的に違うのはエプロンが血まみれなところだ。
もちろん、彼女が怪我をしているわけではないし、イノシシの血だろう。
「……見学ってことは、解体のですか?」
「そうだよ。流石にコレだけ大量のイノシシを解体することはないけれど、それでも家畜を潰すことはあるからね。出来るようになった方がいいだろう?」
「なるほどー……」
確かにウシもウマもヒツジもニワトリも……村ではたくさんの動物を飼っている。
労働力としてだったり乳や卵や毛を得るために飼育しているが、場合によっては肉を食べることだってある。
もちろん、簡単に育つわけじゃないから頻度は少ないだろうが、村には肉屋があるわけでもないし、住人が行っているんだろう。
「バラすのは男の仕事だけれど、その後は女の仕事だからね。小さい頃から見て覚えるんだよ」
おばさんはそう言うと腰に手を当てて豪快に笑った。
家で使用人として働いている時からサバサバした人だとは思っていたが……外に出るとより一層だ。
おばさんの笑い声に混じって、子供たちが「お姉ちゃんも一緒にやろう!」と誘って来る。
思えば料理の手伝いはしていても解体から……ってことはやったことがないし、コレも経験か。
前世のボクなら間違いなく断っていたが、そもそもこのイノシシの大半を仕留めたのはボクだし今更だ。
「よし……!」と腕まくりをしながら前に出て、ボクも参加しようとしたが……。
「駄目だよ。アンタ風呂に入ったばかりだろう!」
おばさんの睨みながらのその言葉で足を止めてしまった。
「服だって着替えたんだし、汚れるような作業は今日は止めときな」
彼女の言葉はもっともだ。
洗濯は手間がかかるし着替えだっていくらでもあるわけじゃない。
ボクは子供たちに「怒られちゃったね」と笑いながら伝えると、彼女たちも「そうだね」と笑い返してきた。
さて……どれくらい汚れるのかわからないが、この分だとボクは解体場所には近づかない方がいいだろう。
住人の相手はジェイクに任せているし、どうしようかな?




