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先程のイノシシとの戦闘の報告や、村の状況なども聞き終えたところで、ジョンも広場に顔を出すから……と、ボクと一緒に広場に向かうことになった。
ちなみにエイダさんはお留守番だ。
……ボクが一緒だからだろうか?
廊下を歩きながらジョンにそう訊ねると、どうも彼女はあまり人前に出るのが得意ではないそうだ。
どことなくシンパシーを感じるが、村長夫人としてはちょっと困っているらしい。
性分なんて頑張ったところでどうにもならないこともあるが……ラカンパの街や村人との折衝などで、どうしてもビーンズ家の中で立場のある女性が必要なシーンも出てくる。
そこを母が担当しているんだとか。
それを聞いて、彼女が母をちょっと苦手そうにしていた理由がわかった気がする。
単純に頭が上がらないんだろう。
ボクにもそうなのは……母の娘だからかな?
まぁ……憎まれたりとかそんな感じじゃないってことがわかったのは朗報だ。
「アリス、君から見て村の守りで足りない物は何かあるか?」
「人が足りなさ過ぎますね。今は……ジェイクたちを含めても七人でしょう? 見回りだけならなんとかなっても、対処までってなったら……」
直接口にはしないが、今回みたいなことがあれば流石にジェイクたちだけでは手に負えないだろう。
獣避けが手に入るし、そんな事態は起こらないかもしれないが、もし起きてしまった時に対処出来る者がボクだけってのは問題だ。
「ふむ……それに関しては街と協議している。近いうちに進展があるはずだ。とりあえず、今回ジェイクたちが案山子よりは役に立つことがわかったからな。それで十分だろう」
よくわからないが、ボクの知らないところで色々動いているらしい。
それも母が関わっているのかな?
まぁ……それはまた別の問題だ。
それよりも。
「魔物や魔獣の知識も足りないです」
ボクの言葉に、ジョンは「む?」と首を傾げる。
「群狼戦士団は魔物や魔獣退治も引き受けていただろう? それに野営地で暮らしていたのだし、戦闘に参加はしなくても見聞きはしたのではないか?」
「森に近づくなとか、夜は出歩くな……とかは言われていたけれど、それ以上のことは何も」
「ほう……」
「書庫には魔物の資料もあるんですよね? 今回は倒すだけでよかったけれど、それ以上の何かが来たらボクの手には負えないかもしれませんよ?」
ボクが持っている魔物の知識なんて、精々なんかすごい生き物……ってくらいで、碌に役に立たないだろう。
どうやらその死体は、加工次第で素材として色々な物に転用出来るみたいだし、ある程度情報を制限する理由はわからなくもない。
だから、ボクも今ままで特に要求したりはしなかったんだが、いざ実際に戦ってみると、やっぱり知識はあるにこしたことはないと思い直した。
「……わかった。閲覧には当主の許可が必要になる。街に連絡するからそれを待ちなさい」
「わかりました」
そう返事をしたところで屋敷の玄関ホールに出た。
二階と違ってこちらには使用人もいて、彼らはボクが突如奥から姿を見せたことに驚いている。
その様子を見たジョンは、小さく溜め息を吐くと「楽かもしれないが、今後は窓からの出入りは止めなさい」と呟いた。
◇
広場ではイノシシたちの解体が始まっており、皆の注意はそちらに向いていて、屋敷から出て来たボクたちには気付いていなかったが。
「親父っ!? それに団長も……」
ジェイクが気付くと、輪を割って出て来た。
「怪我人は?」
「集会所で治療中だ。消毒はしているが、今のところ薬を使うほどじゃねぇって話だ」
「重傷者はなしだな。私はそちらに顔を出してくる。お前はアリスの手伝いをしろ」
そう言うと、ジョンは声をかけてくる村人たちに挨拶をしながらも、足早に集会所に向かって行った。




