82
外での戦闘や被害状況についての報告を終えると、ジョンは何事か考えこむように黙って腕を組んでいる。
一方、一緒に聞いていたエイダは、とりあえず被害が大きくなかったことにホッとしているようだった。
ジョンが黙り込んでいたのは一分ほどだろうか?
考えが纏まったのか、目を開けるとこちらを向いて口を開いた。
「一先ず害獣退治ご苦労だった。聞いた限りでは随分と手際が良かったようだが、事前に調査を行っていたのか?」
魔獣を含むイノシシの群れの突発的な襲撃なのに、いざボクが参加したらさほど時間をかけずに片付けられたし、対策でも考えていたのかと思ったんだろう。
アレにどんな対策が有効なのかボクにはわからないが、ともかく「いいえ」と首を横に振った。
「今朝裏庭で訓練していた時に、ジェイクからこの時期はそろそろ獣とかが姿を見せるから気を付けろって言われていたので、槍を持っていたんです」
「……ジェイクが? なるほど。群狼戦士団の真似ごとばかりしていたと思っていたが、少しは頭も育っていたようだな」
中々辛辣な言葉を吐くジョンに、エイダさんが「あなた……」と窘めるが、二人とも言葉の割にどこか嬉しそうな表情を浮かべている。
ジョンが言ったように、ジェイクがただ剣を振り回したいだけのチンピラじゃないことが分かってホッとしているんだろう。
「ジェイクたちは戦闘では役に立っていたか?」
「うーん……まぁ、邪魔にはならなかったですよ?」
彼らがやったことといえば、ボクへの状況の説明と戦闘時の後方からの指示出し。
それと、ラストの二頭を倒したことだろうか?
助かったといえば助かったけれど、絶対に必要だったかといえばそうでもない。
両親の前だからって、ジェイクは無理に持ち上げてあげるような歳でもないし、それに……勘違いさせてしまって命を落とすようなことをされたら流石に胸が痛むし、ここは正直な感想を伝えた方がいいだろう。
ジョンも少し気が抜けたような表情で「そうか……」と呟いたが、機嫌を損ねたようには見えない。
ジョンは大きく溜め息を吐くと、お茶を一口飲んで再び口を開いた。
「しかし、襲ってきた獣の中に魔獣が含まれていたのは幸いだったな。今年は群狼の巡回がなかったからどうするか迷っていたが……それも解決だ」
「?」
どういうことだろうと首を傾げていると、ジョンはさらに続ける。
「魔物や魔獣の内臓を焼いた灰を村や農場の周りに撒けば、それだけで獣避けになるんだ。毎年害獣退治の一環で群狼戦士団に調達してもらっていたんだが……今年はそうはいかなかっただろう?」
どうやら群狼戦士団の壊滅が彼らの予定を曲げさせることになってしまったようだ。
魔物退治なんて頼まれてはいないが、それでも今はボクが団長だしな。
期待されていた仕事をこなせていないのはボクの責任でもある。
ボクはジョンに向かい「すいません」と頭を下げた。
「責めているわけではない。君の役目は村の警備で、今日正にその役目を果たしたわけだし、気にしなくていい。それはさておき……魔物避けの薬品を購入することは決めていたんだ。だが、薬品とはいえ、毒物に近い代物で簡単に買えるものではなく申請する必要がある。加えて、申請したからといってすぐに手に入るわけではない」
「なるほどー……」
それがどんな代物かはわからないけれど、本来この村では必要ないだけに時間がかかってしまっているんだろう。
「今は街で父とリリアナが交渉を引き受けているが……必要なのはウチだけではない。周辺一帯で一番大きい農場を持っているとはいえ、時間がかかっていたんだ」
「……他の村とかにも需要があるんですか?」
「農村では必要だろうな。……群狼が害獣退治で周っていたのはウチだけではないし、他からも申請があったはずだ」
「……へぇ」
他の村も魔獣や魔物を倒せる者が必要なのか……。




