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柵の修理も無事何事もなく終わり、ボクはおじさんたちと揃って村に戻って来た。
既に仕留めたイノシシたちが持ち帰られたことで、外でどんなことが起きていたのか……ってことは住人たちにも伝わっている。
まぁ……村の広場にはイノシシの死体がドンと積まれているし、外にいた者たちが興奮交じりに積極的に話して回っているから伝わっているのは当たり前か。
特にジェイクの取り巻きたちがその積まれたイノシシの前で大声で騒いでいるし……集会所で勉強をしていた子供たちも一緒になって騒いでいる。
「いやあ……凄い活気だ。秋の収穫祭だってここまで盛り上がらないんじゃないか?」
「村が獣に襲われることはここ最近だと滅多にないからな。それもあの数に。それでほとんど被害なしに乗りきれたんだ。騒ぐのも無理もないさ」
一緒に帰って来たおじさんたちは広場の前で足を止めると、そちらの様子を眺めながらそんなことを話している。
自分たちは違うぞ……って顔をしているが、大人数で柵の修理に出て行くくらい彼らも舞い上がっていたし……あんまり偉そうなことは言えないんじゃないかな?
まぁ……いいさ。
「それじゃー、お疲れ様です。ボクは家に戻るんで、何かあったら言いに来てください」
気を付けてはいたが、それでもアレだけの数のイノシシをアレだけ派手に倒して回ったため、飛び散った血がかかって服が汚れてしまっている。
染みにならないうちにさっさと洗わないと……。
「団長がいなかったらどうなっていたか……ありがとうございました」
「アレの処理は村でやっておくんで、団長はゆっくり休んでいてください」
向こうのことはもうジェイクや彼らに任せて大丈夫だろう。
ボクは彼らに別れを告げると、家に向かうことにした。
◇
屋敷の裏手に回り込んで、広い裏庭を通り抜けて家に辿り着いた。
村の広場からは距離があるのに、喧騒がここまで届いている。
広場には屋敷の使用人らしき姿もあったし……ウチを見てくれているおばさんたちも行っているかもしれない。
「ただいま戻りましたー」
家の中には誰もいないかもな……と思いつつも、一応帰宅したことを告げると、奥からバタバタという足音とともにおばさんが姿を見せた。
「お帰りなさい、アリスちゃん。怪我は無いかい?」
「ええ。服は汚れちゃいましたけど、大丈夫です」
そう答えると、おばさんんはホッとした様子で胸を撫で下ろしている。
「ウチの人からアリスちゃんが魔獣……? それを退治しに行ったって聞いて心配してたんだよ。ついさっき手伝いに呼ばれて他の娘たちは行ったんだけど、一応あたしは残っておこうと思ってさ。風呂の用意は出来ているよ。服の洗濯もするからさっさとは行っちゃいな」
洗濯だけじゃなくて風呂の用意まで済んでいるとは……ボクが頼みたかったことを全部やってくれている。
ありがたい限りだ。
ボクは「そうします」とおばさんに返すと、そのまま浴室へ向かった。
◇
「アリスちゃん、あたしも手伝いに呼ばれたから広場に行ってくるよ。着替えはここに置いておくからね」
風呂に入ってしばらくすると、浴室の向こうからおばさんの声がした。
「わかりましたー。ありがとーございまーす」
ボクの返事を聞いて、おばさんはバタバタと走って行った。
通りすがりに見ただけだが広場には結構な人数がいたはずなのに、それでも手が足りないのか。
まぁ……あの大きさのイノシシ十頭分だ。
処理する場所を整えたり、準備を始める段階から大仕事だろう。
ボクは……もう一仕事したし、ゆっくりさせてもらおう。
「でも、その前に槍をどうにかしないとね」
ボクは浴室に一緒に持ち込んだ槍に視線を向ける。
パッと見たところ穂先が欠けたりはしていないし、柄が歪んだりもしていない。
それでもイノシシ八頭を倒したんだ。
本格的な手入れは無理でも、血と脂くらいは落としておかないとな。




