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「よいしょっ!」
塀の天辺に手を付くと、そのまま上に乗りあげた。
幅は十センチメートルほどで動き回るのは難しいが、ただ単に上に立つだけなら問題無い。
高さは……三階近くあるのかな?
この村以外周辺には背の高い物と言えば裏手の森くらいだし、視界を妨げる物が無いからかなり広範囲まで見通すことが出来る。
回収作業が終わるまでは、ここに留まって周囲の警戒をしておこう。
そう考えて、バランスを取りながら村の外に体を向けたんだが、村の方から「アリスさん!」とボクを呼ぶ声が聞こえた。
そちらに顔を向けると、時折挨拶をするおじさんが手を振っている。
さらに、塀の上のボクに気付いた他の住人たちも集まりだした。
「アリスさん! 外はもう片付いたんですか?」
「イノシシの群れは倒しましたよ! 今はそれを回収しています!」
「そいつぁ良かった! さっき何人か外に向かったが、人手は足りてるかい?」
ボクはその言葉を受けて、作業の進捗を確認するために農場の外に視線を向けた。
農場の外に散らばっていたイノシシの死体は、既に農場側に運び込まれている。
そして、作物を乗せるリヤカーを使って村に運び込むつもりらしい。
それに乗せようと奮闘している姿が見えた。
この群れのボスだった魔獣は一際大きかったが、他のイノシシだって決して小さいものではなかったし、相当な重さだろう。
だが、人数は揃っているしリヤカーの数だって限りもある。
とりあえず、向こうにいる人たちで十分だろう。
それよりも。
「運ぶ人は足りていますけど、ボクが農場の柵を壊しちゃったんです」
あの柵は見た感じこの塀と同じ素材みたいだし、補修するにしても道具が必要だろう。
「補修をお願い出来ませんか?」
高い位置からではあるがそうお願いすると、集まっていたおじさんたちは「よしっ! 任せろ!」と言ってどこかへ走って行った。
「あんなにたくさん必要なのかな……? まぁ、盛り上がっちゃってるし、出遅れた分何かに参加したいのかもね」
怪我人こそ出たが、重傷ってわけでもないし……村にとっては丁度いいイベントなんだろう。
ここからだと村の広場辺りまで見えるが、住人の大半が外に出て来ていていて、どこか村全体がウキウキしているようだ。
この状況で突っ込むような真似は出来ないね……。
「それじゃー……水を差さないように、しっかり外を見張っておかないとね」
再び外を向いたボクは、槍を構えて塀の上を歩き始めた。
◇
イノシシの回収と壊れた柵の補修と修理。
幸いどの作業にも余計な邪魔が入ることはなく、スムーズに片づけることが出来た。
柵の修理に出てくれたおじさんたちは、どうやらこの村の大工仕事を引き受けたりしているらしい。
塀の上からではあるが、手際の良さはよくわかった。
もしかしたら彼らに今後お世話になることもあるかもしれないし……。
「よいしょっ」
塀の上から飛び降りると、ボクは彼らの下にポンポンと飛び跳ねていった。
「お疲れ様です。助かりました」
「おおっ! アリスさん!」
改めて挨拶ついでに礼を言いに行くと、彼らは大声で笑いながらこちらを見た。
一仕事終えたからなのか実にいい笑顔だ。
「柵に使ってる木材は裏の森の木で、何年もかけてしっかり乾燥させたものなんだ。村の塀にも使っているくらいで相当頑丈なはずなんだんだが……イノシシがぶち破ったのかい?」
「血が付いていたし、ここで暴れたんじゃないかってのが俺たちの考えなんだが……」
彼らの言葉にボクは肩を竦めながら答える。
「そこで真っ二つにしたら、そのまま胴体が転がって行っちゃったんです」
「……それでこうなったのかい?」
只ぶつかっただけでこうなったことと、それをボクが倒したことに若干引いてしまったらしい。
「牛みたいな大きいイノシシでしたよ。それが魔獣で、多分群れのボスみたいでした」
「そ……そうか、いやそれを簡単に倒せるなんて頼もしいね!」
そういう彼らの声は若干上ずっていた。




