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新たに応援にやって来た村の大人たちが、重そうにイノシシの死体を回収している間、ボクたち警備隊は周囲の警戒を行っていた。
十頭もの……うち二頭は惨殺と言っていい程損傷させたイノシシの死体が転がっているだけあって、鼻までスカーフで覆っていても臭いがわかるくらいだ。
これでも怪我人や死体には慣れているから、こんなことで気分が悪くなったりすることはないんだが……この臭いで魔物や獣を呼び寄せやしないだろうか?
「……この場所からだとあまり広範囲は見えないね」
少しずつ農場から離れて警戒する範囲を広げているんだが、どうしても農場の作物や柵や倉庫といった人工物があるし、草原に生えている草だって膝の高さくらいまである。
それらが邪魔をして、見える範囲は精々数百メートルほどだし、背の低い獣なら気付いた時にはすぐ側まで来ていてもおかしくない。
「すぐ側に街道は通っているし勾配も少ないから、見通しは悪くないんだぜ?」
少し離れた位置から警戒しているジェイクが、辺りを示しながら答える。
前世の様に丁寧に道路工事をしているわけではないし、平地が多いとはいえ平らな道が真っ直ぐ続いているわけではないことを考えると、確かに彼の言う通りではあるんだが。
「まぁね。でも、村の塀の向こう側とか草原の向こう側とかがわからないからね」
所々死角があるのも確かだ。
イノシシが十頭も襲って来て何で気付かなかったんだろうと不思議に思っていたが……これは余程注意深く監視していないと気付けないよ……。
体の動かし方は理解出来たし、何が出て来たところでそれなり以上にやり合える自信はあるんだが……村や作業している皆を守り切れるかどうかまではわからない。
守る立場になって見て初めてわかったが、群狼戦士団の野営地はいつも開けた場所で、尚且つ一方を川が流れていたりと、襲撃に気付きやすかったり守りやすい場所ばかりだった。
一ヵ所に居を構える生活と一緒にすることは出来ないが……やはり父たちはプロだったか。
野営地のことを思い出しながら周囲をキョロキョロと見回していると、ジェイクが今度は村の方を指した。
「まあな……村には櫓があるが、防犯上の理由で外には建てていないしな。こればかりは周辺の見回りでカバーするしかねぇよ」
ジェイクが言うように塀より高い設置物がすぐ側にあったら、そこから簡単に中に入って来られてしまうし、それじゃー……意味はないだろう。
しかし、今の言葉でピンときたことがある。
「……おぉっ、見る位置を変えたらいいんだね」
今までは、あまり打ち解けられていなかったこともあって住人に配慮して、あまり派手な真似はしないように気を付けていたんだが、イノシシの群れを圧倒してみせたし塀の上に飛び乗ったくらいで忌避されるようなことはないだろう。
むしろ、それくらいの力があるってわかった方が安心出来るかもしれない。
「ボクは塀の上から見るから、下はお願いね」
ジェイクにそう告げると、「おいっ!?」という声を無視してボクは塀に向かって走り出した。
ポンポンと飛ぶように駆けていくと、すぐに村全体を囲んでいる塀が目の前に迫ってくる。
農場に出てくる時はそこまで意識したことがなかったから気付かなかったが、村の方が外よりも一メートルかもう少し程高い位置にあるようだ。
外から飛び越えるにはかなりの勢いが必要になりそうだ。
「せーーーのぉっ!!」
両足に魔力を込めると、思い切りジャンプした。
「おっとっと……ちょっと足りないかな!?」
塀のすぐ脇には住人が農場に出るための畦道があって、そこで踏み切ったんだが……ボクの脚力に耐え切れずに少し崩れてしまった。
その所為でバランスを崩してしまい高さが足りない。
足から塀に着地すると、さらにもう一度ジャンプをする。
塀を壊したらいけないし、今度はちゃんと力加減を考えてだ。




