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群狼戦士団の団長である父は、野営地で見かける時はいつも剣を腰や背中に身に着けていた。
だが、剣が専門というわけではなく、戦場では槍も使うし弓を使うこともあったらしい。
それは父だけじゃなくて、戦士団の団員の大半が複数の武器を扱うことが出来ていた。
野営地を襲撃された際にそこにあった荷物は賊に奪われたが、それをまたボクが回収したわけだ。
その中には父たちが扱っていた大量の武具が揃っていた。
日用品や装飾品はビーンズ家の伝手を頼って、ラカンパの街で処分してもらっている最中だが、武具に関しては簡単に買い集めることが出来る代物でもないし、ボクが暮らしている離れの家で保管している。
ちなみに、他人が勝手に触れられないように、ボクの部屋の隣を一室丸々物置として使っている。
ボクが今日持ち出した槍は、その中にあった一本だ。
特に目立った飾りは無いし地味な造りだったが、二メートル程の長さで、柄の太さははボクの手でも握れるくらいと、扱いやすそうだったから選んだんだが……。
「え?」
突き出した槍はイノシシのお尻に斜め後ろから突き刺さると、そのままズブズブと柄の半ば近くまで突き刺さってしまった。
「やばばばばっ!?」
精々穂先が軽く埋まる程度だと考えていたが、いくら魔力を込めたからってコレは想定外だ。
しかも、魔獣だからかなんなのかはわからないが、ザックリと胴体を深く槍が突き刺さっているのにイノシシの足は止まらない。
槍を持つボクを引きずりながら農場に向かって突っ込んで行く。
「あわわわわっ……!!」
このままじゃいけないのはわかっているが、引っ張られるボクの足は宙に浮いていて地面に着いていない。
踏ん張ることが出来ないしどうしたら……と迷っているうちに、農場を囲む柵がもう目の前に来ていた。
とりあえず槍を引き抜いて改めて止めを……!
ボクは「……ええぃっ!!」と槍を掴む両手に魔力を込めて、思い切り引き抜こうとしたんだが……急に手応えがなくなった。
「へ?」
何が起きたのかと顔を前に向けると、何故かイノシシの体が真っ二つになって転がっていた。
バランスを崩して危うく地面に転がり落ちてしまうところだったが、何とか足から着地すると、勢いそのままにザザーっと滑っていく。
そして、真っ二つになったイノシシの体が柵に直撃して一気にへし折った。
改めて見ると牛みたいなサイズのイノシシだ。
パッと見だと大きさ以外に違いは分からないが……コレが魔獣か。
まぁ、大きいってだけで厄介なことに違いはない。
直前で真っ二つになったとはいえ、それが高速で転がって行けば相当な衝撃だろう。
木製の柵なら簡単に壊してしまう。
上手いこと衝撃は柵が吸収してくれたようで、農場には入らなかったが……十メートルほど柵がなぎ倒されてしまった。
「やってしまった……」と壊れた柵を見てオロオロしていると、離れた位置からジェイクの声が響いた。
「団長! 怪我をしたのかっ!? まだいるぞ!!」
その声に「はっ!?」と我に返った。
ボクは急いで立ち上がると、ジェイクたちに向かって槍を振って「大丈夫!」と応える。
柵を壊したのは確かに問題だが、イノシシの群れは魔獣二頭も含めて健在だ。
「柵壊しちゃったから、こっち見といて!」
ボクはそう告げると、再びイノシシたちの群れに向かって走り出した。
イノシシたちは先程と同様にボクに向かって咆哮を上げているが、纏まりがなくただバラバラに叫んでいるだけだ。
今の大きいイノシシがこの群れのボスなのは間違いがなさそうだな。
「……うん? いや、後々。とりあえず……農場に近いのから倒していけばいいね!」
走りながら槍を振るってこびりついていた血を払い落とすと、まずは一番手前にいるイノシシに薄っすら光る槍の穂先を向けた。




