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ジェイクたちの下にやってきたボクは、まずは「どれが魔獣?」と訊ねると、我に返ったジェイクが剣を目の前に伸ばす。
「あの奥の一番デカいのと、両端の二頭が魔獣だ。後はそいつらに率いられている群れってところだ。最初突っ込んで来たところを何とか追い返したんだが、まだ農場の作物を諦めちゃいねぇ」
他の皆を見ると、何人かが手にしている武器に血が僅かについている。
ここからだとわからないが、浅くはあっても少しは傷を負わせたみたいだ。
十頭全部健在なのにそれで慎重に動いているのかな?
「怪我人は?」
パッと見たところジェイクの他には六人の男たちがいる。
今日は子供たちは塀の中に戻って来ているが、普段はもっと農場で働く者は多い。
小屋の中に避難しているにしても、ちょっと数が少ない気がする。
「三人だ。突っ込んできたイノシシに引っかけられて……軽傷だが小屋に運んでいる」
「軽傷ね……。うん……なら大丈夫だね」
ジェイクの判断だけじゃどの程度の怪我なのかはわからないが、それでも少なくとも瀕死の重傷とかそんなレベルじゃないのは間違いない。
いざとなれば回復薬だってあるし……外が片付くまでは大人しくしておいてもらおう。
「とりあえず……倒してくるから、その間にこっちに向かって来るようなら適当に追い払っておいてよ」
「……出来るのか?」
ジェイクはボクの言葉を疑うような視線を向けてくるが、今は話している暇はない。
「出来るよ。お願いね!」
それだけ告げると、ボクはイノシシたちに向かって走り出した。
◇
初めイノシシたちは農場から駆け出してくるボクを脅威と捉えていなかったのか、無視して農場の方ばかり見ていたが、この速度は想定外だったらしい。
もう後僅かという距離まで来たところで、急に騒ぎ始めた。
凄い鳴き声だ。
「イノシシ……ってブタの仲間だよね? もっとかわいい鳴き声なら愛嬌もあるんだけどね!」
「ブヒブヒ」や百歩譲って「フゴフゴ」ならまだ可愛げがあるんだが、前世で高架下などで大型のトラックやバスがすぐ側を通った時のような凄い音だ。
それを聞いてふと子供の頃を思い出した。
「野営地で夜中に似たような音で目を覚ましたことがあったかな……? テントの外が騒がしかった気がするけど……アレも魔物だったのかもね」
あの時はどうなったのか覚えていないが……ボクの記憶にないってことは大人たちが上手く処理したんだろう。
これまでの人生で魔物と遭遇したことはなかったが、意外とニアミスはあったのかもしれないし、意外と身近な存在だったのかもな。
そんなことを考えていると、一際大きいイノシシがこれまたデカい咆哮を上げたかと思うと、真っ直ぐ突っ込んで来た。
猪突猛進って言葉があるが、凄い勢いで一直線にだ。
「っ!? ヤル気になっちゃったかな? 速いけど……これならいけるね!」
驚きはしたが、ボクは足を止めずにさらに加速した。
互いに真っ直ぐ突っ込んで行って衝突寸前。
「……ほっ!!」
ボクは大きく跳躍してイノシシを飛び越えた。
そして、槍を強く握りしめると、通り過ぎて行ったイノシシを追って走り出す。
ボクが頭上を飛び越えたことは理解しているのに足を止める様子はないし……無視してそのまま農場に向かうつもりなのかな?
ジェイクやその取り巻きもそうだったが……どうやらボクのこの見た目じゃ相当侮られてしまうようだ。
人間相手だと厄介ごとに巻き込まれる可能性もあるが、魔物相手なら……むしろ好都合かな?
「よー……いー……しょっとっ!!」
イノシシも速いが、全力で走るボクの方が速い。
大股で走りながらドンドン距離を詰めてすぐ後ろまでやって来るとと、グイっと上体を捻って陸上競技の槍投げのように振りかぶった。
槍を使うのは初めてだからコレが正しい使い方かはわからないが……。
「せーーのぉっ!!」
思い切りイノシシ目がけて突き出した。




