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魔獣の対処を頭を下げて頼まれたボクは「ふむ……」と頷くと、窓辺から離れた。
振り向くと子供たちが不安そうな表情でボクを見ている。
「大丈夫だよ」と告げるが、表情は変わらないままだ。
ウチの子供たちは魔獣という未知の存在に怯え、村の子供たちはまだボクを信頼出来ていないからかな?
もう一度「大丈夫だよ」と伝えると、部屋の奥に立てかけていた槍を手に取った。
一応ボクはこの村の警備隊長という立場だし、恰好だけではあるが小剣を腰に帯びている。
小剣で戦えるのかって不安もあるが、住人からまだまだ信頼されているかわからないし、ボクが武器を持ってフラフラ出歩くのも怖がらせてしまいかねないからだ。
ただ、今朝のジェイクの言葉もあって、念のため槍を持ち歩いていた。
まぁ……本当に念のためって程度の考えで持っていた槍に出番があることに、ボクも驚いてはいるが……そんな様子は見せるわけにはいかない。
「魔獣ね……何の魔獣なんだろうね?」
余裕を見せるためにゆっくりそう呟くと、報告に来たおじさんが「イノシシです! それが十頭近く!」と必死な声で伝えてくる。
イノシシ十頭……結構な数だ。
でも……。
「お姉ちゃん……大丈夫なの?」
ウチの子供たちが不安そうな声でそう訊ねてきた。
「おや? ボクの強さが信じられないかな?」
そう言ったところで、この子たちもボクが戦っている姿を見たことがないことを思い出した。
かと言って連れて行くわけにもいかないし、後でジェイクや外にいる住人たちにたっぷり宣伝させようかな。
「魔獣とはいえ、イノシシなんだし食べれるよね? 何か作って欲しいメニューでも考えておくといいよ」
子供たちに笑いかけながらそう言うと、窓から外に出た。
そして、おじさんに場所を訊ねようとしたが……。
「どこに……って聞くまでもないか」
窓から見える塀の向こう側がその農場で、そちらからジェイクたちの叫び声が聞こえていた。
今のところ声にはまだ勢いがあるしみんな無事みたいだが、先程よりも声が近づいているし押されているんだろうな。
塀の向こう側の状況を把握するために視線を向けていると、おじさんは「アリスさん、急いでください!」と悲鳴じみた声で急かしてきた。
村の大人はそろそろ皆ジェイクとの決闘の様子を伝えられているはずだが、それでも実際に見た者は少ないし、ボクの力を疑っているのかもしれない。
そもそも、ジェイクたちの強さもそこまで評価されていなかったのかもしれないね。
むしろそっちの方が可能性は高いかな?
ボクは「フフ」と笑うと、スタスタと塀の前に歩いて行く。
「アリスさん?」
「急いでいるんでしょう? それなら回り込むよりも……!」
両足に魔力を込めると、軽く助走をつけて一気に塀を飛び越えた。
◇
塀を飛び越えたボクは、おじさんたちの驚く声を背にしながら農場の様子を確認する。
剣を手にしたジェイクやその取り巻きと、鎌か鍬かは分からないが農具を手にした大人たちが、農場の手前に散らばっている。
そして、彼らの先には大きな獣が何体もいる。
「確かイノシシが十頭だって言ってたね。まだ……農場には踏み込まれてないか」
着地する前にザっと数を数えるが、まだ農場は無事みたいだ。
ただ、軽く見ただけでもイノシシの巨体に圧倒されているのか、皆へっぴり腰でまともに戦えていなかった。
精々目の前で棒切れを振り回すことで気を逸らす程度だ。
まだ姿を見せたばかりだから効果はあるようだが、慣れてしまったらそのうち無視して突っ込んで来るだろう。
そうなる前に!
「ふっ!」
地面に着地すると同時に、再び足に魔力を込めて全力で地面を踏み切ると、作物の間を縫うように駆け抜けて行き、あっという間にジェイクたちの下に辿り着く。
「団長!?」
「お待たせ。アレで全部かな?」
イノシシたちに槍を向けながら、ボクは驚く彼らの前に出た。




