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ボクたちが村で暮らすようになって、そろそろひと月が経つ。
子供たちも農場での仕事に慣れて、村の大人たちにも可愛がられているし、一緒に仕事をする子供たちともすっかり仲良くなっている。
毎日楽しく仕事をしたり読み書きを教わったりしては、暗くなるまで子供同士で遊んでいるし、あの子たちは何の心配はいらないだろう。
ボクは……まぁ……まぁまぁだ。
離れの家に来てくれる使用人たちとはそれなりにコミュニケーションは取れているが、それ以外の住人とはどうにもこうにも。
やはり、ジェイクの首を刎ねかけた件が影響しているんだろう。
ボクが喧伝したわけではないんだが、あの勝ちっぷりを見た者が村で喋ってしまい、それが広まった結果……。
ひと月暮らしてわかったが、この村の住人はほとんど魔力を扱うことが出来ないようだ。
この村の警備に時折来ていたウチの団の人間が、住人とどれくらいの距離感だったのかも知らないし、そもそも誰が来ていたのかもわからないが、そもそも魔法や魔力の知識もほとんどないらしい。
そのため……ボクのことを恐れているわけではないが……少々距離を取られている。
それで子供たちの扱いが変わるわけでもなさそうだし、あまり社交的ではないボクにとっては気楽でいいんだが……どうにも落ち着かない。
ちなみに、母はずっとこの村にいるわけじゃなくて、月の半分以上はラカンパの街の屋敷にもいっているそうで、ボクたちが村の暮らしに慣れてきたと見たら、ラカンパの街へ行ってしまった。
遊びに行くわけじゃなくて仕事に行っているんだし、別に今更母と仲よくしようとも思わないが……ボクの間に入る人間が……。
あの日以来村の警備の責任者という立場になってしまったにも関わらず、いまいち村の人間と友好関係を築けていない現状について改めて頭の中で整理すると、少々気が重くなってくる。
腰に手を当てて「はぁ……」と溜め息を吐いていると。
「団長どうした? 手が止まってるぞ!」
ちなみに今は早朝で、まだ村の人間が仕事に取り掛かる前だ。
そこでボクは屋敷の裏の広場……ジェイクと決闘を行った場所で、剣の訓練を行っている。
魔力による強化のごり押しで並の賊なら圧倒出来る自信はあるが、少しは剣の腕を上げた方がいいと、あの決闘を経て考えるようになった。
付け焼刃で何かが変わるってものでもないだろうが、やらないよりはきっとマシに違いない。
ジョンに頼んで、布を巻いた丸太を地面に何本も埋めた訓練場所を作ってもらった。
それに木剣を打ち付けたり振り回したりしている。
「おい! お前らも、ぼさっとしてないで手を動かせ!」
「はいっ!」
野営地にいた頃は魔力の操作と強化した状態での運動とかはやっていたが、こうやってまともに戦う訓練を行うのは初めてだ。
指導者がいるわけでもないし、前世のマンガやアニメを参考にしている訓練で果たしてどこまで効果があるのかはわからないが、何もやらないよりはきっとマシだろう。
「おい! 団長のアンタがそんなんだと示しがつかねぇだろう!」
……。
「あぁぁぁ、もうっ! うるさいよ!」
先程から人が真面目に考え事をしているのに、デカい声で邪魔をして一体何なんだ!
ボクが怒鳴り返すと、当の本人は全く堪えた様子を見せずに言い返してくる。
「今は訓練の時間なんだ。手を止めてないでアンタもさっさと動け動け!」
そう言うと、ジェイクは空いた丸太に向かって走り出すと、すれ違いざまに木剣を一度二度三度……と叩きつけている。
まぁ……悪くない動きだと思う。
「ジェイクさんに負けるな! 俺たちも行くぞ!」
「おお!!」
ジェイクの動きを見て、彼の取り巻きたちも気合いの声と共に、丸太に向かって木剣を振るった。
活気があるし真面目にやっているのは良いことなんだろうが……どうしてこんなことになってしまったんだろう。
彼らを見ながら、ボクは再び深い溜息を吐いた。




