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エリーゼは屋敷に到着してすぐに、カイルと二人の副長を伴って父の部屋を訪ねると、事前に連絡していたこともあり、部屋には父親であるラシアンの他に長兄のクラインと領地の騎士団の団長と副団長も控えていた。
「遅くなりましたがただいま戻りました。皆様お揃いでしたか……」
エリーゼは挨拶をしながら室内を見回すと、奥の机の上に何冊ものファイルや地図が広げられていることに気付いた。
恐らくエリーゼの報告を受けて、領内の戦力の再配置について協議していたんだろう。
エリーゼが室内を眺めていると、彼女の視線を戻させたいのか「ゴホン」とラシアンの大きな咳払いの音が響いた。
エリーゼが「失礼しました」と頭を下げると、ラシアンは頷いて口を開いた。
「まずは……無事に戻って来れてなによりだ」
「ありがとうございます。ただ、本来の領内を見て回るという任務は果たせずに終わりました。申し訳ありません」
エリーゼの今回の任務は、いずれ自分が所属することになる領地の騎士団の団員と共に、お忍びで領内を巡回して回ることだった。
それは単純に騎士団の治安活動というわけではなく、昨年まで領地を離れていたエリーゼの勉強のためでもある、
彼女に非があるわけではないが、彼女が巡回をしている……という情報が各代官に伝わってしまったし、任務は失敗になってしまった。
ラシアンはその謝罪を「構わん」と退けると、机の上で手を組んで彼女を見た。
「襲撃を受けた当日にこちらに送った伝令から、簡単には事情を聞いているが……全てを記したわけではないのだろう?」
「はい。群狼戦士団が賊に襲撃を受けたことと、その賊が私も襲ってきたことだけでしたから。今から詳細を報告をさせていただきます」
エリーゼは彼らの前に出ると、アリスやビーンズ家の件も含めた報告を始めた。
◇
エリーゼの報告が終わると、今度は騎士団長たちがカイルやエリーゼの副長たちに質問を始めた。
彼女だけじゃわからない戦場の様子を色々な質問をしながら確認している。
もっとも、彼らも不意打ちを受けて隊列を崩された状況から戦闘が始まっただけに、大した報告は出来ずに終わった。
「……現時点でわかっていることはほとんど無しか」
ラシアンが腕を組みながら溜め息を吐くと、代わりにクラインが口を開く。
「エリーゼ、お前は昨年まで王都にいただろう? 我が領地や国への反乱の気配は気付かなかったか?」
「いいえ、何も。少なくとも表面上は問題なく付き合っていましたし、王都やその周辺に治安の乱れはありませんでした」
「私が把握出来ている限りでもそうだな。他領も含めて、小競り合いはあっても大規模な戦乱に発展するような火種はないはずだ」
「むしろ、私や群狼戦士団を狙うことで火種を作ろうとしているのでは……と考えています」
「それはあるかもしれんな。アリス……だったか? グレイの娘は。お前の独断で決めたことではあるが……余計な人間を介入させないためには悪くない案ではあるな」
ライアンの言葉に、エリーゼは「ありがとうございます」と頭を下げた。
「群狼戦士団は全滅したのか?」
「わかりません。アリス団長も襲撃に気付いた段階で野営地を離れたと言っていましたから……」
「ふむ……グレイを含めて死体を確認するまでは生存の可能性はあるか。状況を把握出来るまで身を隠すくらいはやりかねんし、慌てて判断することもないだろう」
「群狼戦士団に騎士団から人間を送りますか? ビーンズ家を刺激することになりかねませんが……」
クラインの言葉にラシアンはしばし考えこむと、団長と副団長に視線を向ける。
「騎士団の適当な者を退役させろ。その者たちを送り出す。ラカンパの者たちもそれなら騒ぎはすまい」
二人はその指示に頷くが、エリーゼが「お待ちください」と割って入った。
「その件ですが、私に考えがあります」




