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エリーゼ一行がラカンパの街の側にあるビーンズ家の外屋敷を発って二日目の夜になっているが、まだ目的地である領都に到着出来ていなかった。
出発当初の想定では二日目の日暮れ前には到着しているはずだったんだが……昨日の宿泊や道中の補給などで立ち寄った街で、そこの代官から事情を聞かれたり、自分たちの隊以外にも護衛を付けられたりと……想定外の要因が重なり時間がかかってしまっていた。
代官も街を守るために事情を把握する必要があるため、そちらに関してはエリーゼも快く応じていたが、護衛に関しては移動が遅れてしまうからと断っていた。
それでも、自分が任されている街を訪れた後で命を狙われたとあってはならないと代官側も譲らず、言っていること自体はもっともなことだからと、エリーゼ側が折れていた。
結果、一行はラカンパの街を発った時の倍以上の人数である、四十人ほどに膨れ上がっている。
もっとも、移動速度を遅らせてまで戦力を増やした甲斐もあり、賊どころか獣や魔物すら近づいてくることはなく、すっかり日が落ちているにも拘らず安全に移動が出来ていた。
そして。
「失礼します。お嬢様、領都が見えてきました」
エリーゼが一人乗っている馬車の窓を叩く音がしたかと思うと、外からカイルの声が届いた。
「もう間もなく到着です。先触れは既に出しました」
「そうですか。私は馬車に乗ったままなので疲れはありませんでしたが……皆はそうではないでしょう? その結果遅れてしまいましたし……ご苦労様でした」
「いえ、代官たちもお嬢様が賊に襲われたと聞かされてしまえば、騎馬での移動を認めることは出来ないでしょう。今日中に到着することが出来ただけでも上出来ですよ。結局警戒していた襲撃もありませんでしたしね」
カイルの言葉にエリーゼは笑みを浮かべると、「そうですね」と頷いた。
「護衛に付けていただいた兵たちの宿舎は確保出来ますか?」
「それぞれ分かれられるように宿の手配を命じています。大丈夫だとは思いますが、もし空きがない場合は兵の宿舎を利用します」
「結構です。彼らも想定外の護衛任務でしたからね。街でしっかりと疲れを取ってもらいましょう。この馬車はそのまま屋敷に向かわせて下さい」
「わかりました。同行する者は?」
「貴方と副長たちです」
エリーゼの言葉に、カイルは頷くと窓を閉めて隊列に戻っていった。
◇
ポロネス領都は夜にも関わらず、通りや通り沿いの店に明りが灯っていて、人の出入りが多かった。
商人やその護衛の者たちが街に繰り出しているのだろう。
祭りや何かの記念というわけではなく、コレが普段の領都の光景だ。
「つまり……街に異変が起きているわけではないのですね」
馬車の中からその様子を眺めていたエリーゼは、腕を組みながらそう呟いた。
領都に異変が起きていないこと自体は歓迎すべきことだが、逆に何も起きていないことで、彼女はますます自分が狙われた理由がわからなくなっている。
領主一族の直系ではあるが所詮は三女で政治的な役割は軽く、わざわざ領内で命を狙われるほどの存在ではない。
怨恨の類や身代金目当ての犯行にしても、とにかくあれだけ手間をかけてまでやるとは考えにくい。
「……ここで考えたところで無駄ですね」
車内は一人だということもあって、移動中に自身が狙われる理由を考えてはいたが、結局コレだと言えるほどの答えは思い浮かばなかった。
「私が直接の理由になっているとも思えませんし、お父様たちに相談して……それでも何も答えが出てこないのなら、対処は全て任せてしまいましょうか。今後の私の活動は、何も領都を拠点にする必要もありませんしね……」
エリーゼは自嘲するように苦笑すると、窓の外に視線を向けた。
一行は丁度領主の屋敷の門をくぐったところで、もう間もなく到着するだろう。
エリーゼは席から立ち上がると、軽く身だしなみを整え始めた。




