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ジョンの部屋での話が終わり、ボクはもう一度農場に向かおうかな……と思ったんだが、エリーゼ様たち御一行が村を発つということで、それは後回しにしてボクも見送りに出ることになった。
ちなみに、ジェイクは流石にあれ以上は無理だからってことで、屋敷で安静にしている。
まぁ……エリーゼ様も特に関わりのない者が、フラフラの状態で見送りに来ても困るだろう。
今は馬車の前で母やジョンたちと話をしているが、そもそも彼女たちは朝のうちに出発するつもりだったそうだ。
ところが先程のジェイクの一件のせいで、出発を遅らせることになったらしい。
母は全く動じていないがジョンは自分の息子のことだからか、そのことを引け目に感じているようで、エリーゼ様たちの言葉を大人しく聞いている。
今回は自分たちが立ち会うことで決闘として処理したが、次同じようなことがあればただの私闘とみなす。
ボクから手を出す理由はないし、問答無用でジェイク一派……さらには隠蔽でもしようものなら、ビーンズ家やラカンパの街にも処分が下る……と釘を刺されていた。
もっとも、うっかり刃で首を斬りつけてしまうというハプニングはあったが、アレだけ力の差を見せつけられたんだし、ジェイクもさすがに大人しくなるだろう。
今回の決闘の結果を村中に喧伝するつもりはもちろんないが、早朝からジェイクと出歩くような取り巻き連中はちゃんと見ていたし、屋敷の人間にだって結果は伝わっているから、それでもボクに突っかかってくるなんてみっともない真似は出来ないはずだ。
ジョンからしたら領主側の人間に引け目というか弱みを見せてしまった形になるが、ボクにとってはある意味村内での立ち位置の確保が出来たようなものだし、決して悪い出来事……ってわけではなかった。
……そういうことにしておこう。
エリーゼ様たちから離れた場所で眺めていると、ジョンたちとの話が終わったエリーゼ様に「アリスさん」と呼ばれた。
何だろうと思いつつも、ボクも挨拶くらいはしておこうと彼女の下へ向かうと、彼女もこちらに近づいて来た。
「折角知り合えたのですから、もう少しゆっくり話をしたかったのですが……残念です」
「ボクもです」
これは社交辞令ではなく本音だ。
出会い方はとんでもなかったが、歳の近い女性と関わる機会なんてこれまでなかったしボクの方ももう少し話したかった。
「これから領都に向かうんですよね? どれくらいかかるんですか?」
「日暮れ前には街に入る必要がありますから……二日ほどです。通常ですともう少し遅くまで移動してもいいのですが、今の状況を考えると無理は出来ません」
「それは確かに……」
賊の襲撃を退けたとはいえ、結局狙いが何かは彼女たちもわかっていない。
襲撃があの一度だけとは限らない以上、周りの兵たちも十分強いとは思うが慎重に移動をしなければいけないんだろう。
納得して頷いていると、エリーゼ様が苦笑しながら口を開いた。
「一度危ない場面を見られているので説得力はないかもしれませんが、警戒していれば心配はいりませんよ」
「そうですね。皆さん強いですしね」
そう言って笑い合っていると、「お嬢様」と馬車の方から声がかかった。
「そろそろ出発のようですね。一度領都に戻りますが、また近いうちに捕らえた者たちから情報を聞くためにラカンパを訪れます。その時に仮面を贈らせてください」
エリーゼ様はそう言うと、ボクの返事を待たずに足早に馬車へと向かって行った。
◇
エリーゼ様ご一行が村から出て行くのを見届けたし、ボクは農場に向かおうか……と考えていたんだが、「アリス」と母に呼び止められた。
「何?」
「ジェイクが使えなくなったから、貴女が村の警備を引き継ぎなさい。人は好きに使っていいわ」
「へ?」
「アレでもジェイクはここの警備を仕切っていたの。詳しい話はジョンに聞きなさい」
それだけ言うと、もう話は終わりだといわんばかりに母は屋敷へ戻って行き、ボクはその背を見ながら呆然としていた。




