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「貴女……加減したの? 首を刎ね飛ばした方が手間が省けたのに……」
ジェイクの介抱をする二人を少し離れた位置から眺めていると、母も側にやって来ていた。
それにしても。
「したけど……しない方が良かったの?」
母が大分お冠なのはわかっていたが、加減したことを咎められるとは思わなかったな。
「ビーンズ家の当主には年齢を考えたらジェイクの次の世代がなるわ。アレはいらないでしょう」
そう言うと、ジェイクや彼の周りにしゃがみ込んでいる取り巻きに視線を向けた。
後ろにいるボクからは見えないが……取り巻きたちの表情を見る限りだと、母は相当ご立腹のようだ。
「この連中諸共片付けてしまえば村が落ち着くのに……」
と、彼らにしっかり聞こえるように言い捨てた。
それを聞いた彼らは一瞬で顔が青ざめたが……ボクも恐らく似たような表情になっているだろう。
籠を被ったままで良かった。
ホッとしていると、先程ボクにアドバイスをしてくれた兵たちもこちらにやって来ていた。
「何の訓練も無しにあの短いアドバイスでこの程度に抑えられたんだ。上出来だろう」
「リリアナ殿、申し訳ない。可能な限り人死にを避けたかったため、アリス嬢に勝手に助言をさせてもらった」
「フン……まあ、いいわ」
彼らの言葉に母は渋々そう返したが、小声で「余計なことを……」と付けていたことをボクは聞き逃さなかった。
「ジョン。もう傷は塞がったのでしょう? 中で話をするから貴方の部屋に運ばせなさい」
「っ!? 塞いだだけだぞ? しばらく安静にしなければ……」
呻き声をあげるジェイクを庇うように母の前に出たジョンが抗議するが、全く意に介さず話を進める。
「それで死ぬのなら別に構わないでしょう? そこで暇そうにしている者たちにさっさと運ばせなさい」
そして、「貴女も来なさい」とボクに向けてそう言うと、屋敷に向かって歩いて行った。
「……えーと、どうしたらいいのかな?」
母はああ言ったが、流石にこの状況を放置していけるほどボクは無神経ではない。
まぁ、この状況を作り出したのもボクではあるんだが……と困惑していると、兵の一人がこちらに手を伸ばしてきた。
「とりあえず剣を預かろう。それと……話を進めることも大事だ。彼は我々が屋敷に運ぼう。お嬢様、よろしいですね?」
「ええ。幸い傷は浅く致命傷ではありません。動かしても問題無いはずです。構いませんね?」
ジェイクの傍らで治療を行っていたエリーゼ様は、立ち上がるとジョンに向かってそう言う。
ジョンも流石に反論する気は無くなったようで、小さく頷いた。
◇
さて、ジョンの部屋に戻ると改めて話をすることになった。
ちなみにジェイクも一緒だ。
傷はもう塞がっていても流れた血までは戻っていないようで、ボクがすぐ側にいるのに実に大人しい。
まぁ……顔は青ざめているし騒ぐ元気がないだけなのかもしれないが……ともあれ、そのお陰で話はスムーズに進んだ。
ジェイクは早朝父親から叱られてもなおボクへの不満は収まらなかったそうだ。
彼にとって群狼戦士団や団長のグレイは憧れ……というより崇拝対象に近い存在で、娘ってだけでボクがそれを引き継ぐことがどうしても我慢出来なかったらしい。
そこで、エリーゼ様たちがいるうちに決闘……という形をとったんだとか。
領主の娘なら立会人として文句はないし、もしボクを殺したとしても決闘の結果で罪に問われることはないからだ。
もっとも、エリーゼ様や兵たちはボクの実力をわかっているし、まず間違いなくジェイクを圧倒出来ることはわかっていて強く止めなかった辺り、彼女たちもなかなかいい性格をしていると思うが……自分たちがいる間ならどうとでも治められる自信があったんだろう。
ボクにとっては面倒なだけだったが……ともあれ、一件落着って考えていいのかな?




