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受け取った剣を鞘から抜いてみると、良く研がれた綺麗な刃が現れた。
正直なところ、碌に手入れもされていない鈍を渡されたんだと思っていたが……その辺りは思ったよりもしっかりしているみたいだ。
まぁ……取り巻きが見ている中でそんなみっともない真似は出来ないってだけかもしれないが……しかし、コレは本当に困ったな。
ボクは真剣を使って手加減出来るような技術はないぞ?
鞘から抜いた剣を手に「どうしたもんか……」と悩んでいると、ボクを囲んでいる兵たちが一歩詰めてきた。
「アリス嬢、君はあの男を殺したいか?」
「っ!? ……何言ってるんです?」
いきなり何を言い出すのかと顔を上げると、兵たちは真剣な表情をしていた。
少なくとも冗談の類で言った言葉ではないようだ。
籠を被っているから彼らからボクの表情はわからないだろうが、声だけでもボクの困惑っぷりは伝わったらしい。
「事情は後で話そう。君が真剣で加減出来るほどの腕がないのはわかっている。あの男を殺したくないのなら、背後に回り込んで、刃を首元に突き立てるんだ。それだけでいい」
そう言うと彼らは下がって行く。
もう少し事情を……と口に出しかけたが、「グズグズするな!」とジェイクの声に遮られてしまった。
彼の方を見ると、剣を片手に上着まで脱いでいる。
さらに取り巻きからの声援を受けて、得意げに剣をこちらに突きつけているし……やる気は十分みたいだ。
仕方がない。
どう動けばいいかは何となくわかったし、とりあえずさっさと勝ってしまおう。
ボクは鞘を足元に落とすと、剣を片手に前に進み出ていく。
まだジェイクとの距離は数十メートルあるが、ボクとジェイクとの間に兵の一人が立つと、大声で「勝敗は私が裁く。始めろ!」そう宣言して下がって行った。
随分とアバウトだが、格闘技みたいにルールがあるわけじゃないし、こんなんでいいんだろう。
ジェイクも何も言わないし、彼の取り巻きもさらにヒートアップしてボクを罵る言葉を吐き続けている。
何を言われてもどうでもいいんだが……勝ち方も教わったし、さっさと片付けよう。
「朝みたいに助けを呼ばなくていいのかよっ!」
無造作に近づいてくるボクに、ジェイクはわけのわからないことを叫んでいる。
ボクは気に留めずにそのままズンズンと歩いて行き、ジェイクとの距離が十メートルほどになった。
油断しているのか、それとも余程ボクのことを舐めているのか。
あるいは他に理由があるのかはわからないが、剣を片手でプラプラとしながらボクを罵っている。
「何か狙いがあるのかな……と思ったけど、そんなこともないみたいだね。それじゃー……!」
ボクは歩きなが魔力を両足に集めると、地面を思い切り蹴って前に向かって走り出した。
「……っ!?!?」
ジェイクがボクの突進の速さに驚愕して固まっている隙に背後に回り込むと、先程貰ったアドバイスの通り剣を首元に……。
「あっ……」
走り込みながら剣を扱うなんてことを試したことはなく、少々狙いがズレてしまい、首に浅くはあるが刃が埋まってしまった。
「あわわっ……」
さらに、驚いて引き抜いてしまったことでジェイクの首から血が噴き出した。
「ジェイクさんっ!?」
「テメェ……よくもっ!」
ジェイクの取り巻きが、彼の下に駆け寄ったりボクに殴りかかって来たりと場に流れ込んで来る。
殴りかかって来た者たちは蹴り飛ばして対処したが……このジェイクはどうしようか……と狼狽えていると、小さな箱を手にしたジョンとエリーゼ様もこちらに駆け寄って来た。
「どけっ! 邪魔だ!」
ジョンはジェイクに縋りつく取り巻きたちを蹴り飛ばすと、ジェイクの傍らにしゃがみこんで箱を開ける。
そして、中から液体が入った瓶を取り出すと、ジェイクの首元にかけていった。




