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ボクがやり過ぎないかどうか……って懸念を口にしたが、母の「構わないわ」という言葉と、当のジェイクによる「調子に乗るなよ」という言葉で直接戦って白黒つけることになった。
素人のボクが言うことではないかもしれないが、負けるなんてありえない。
……ジェイクとその取り巻き以外はそのことをわかっているみたいだし、出来レースみたいなもんだ。
一先ずジョンの部屋で戦うわけにもいかないし、屋敷の裏に出ることにした。
あそこは裏に何棟か建っている離れがあるくらいで他には何もないし、余計な野次馬が入って来ることもない。
ボクがジェイクを倒したとしても、村への影響は最小限に抑えられるだろう。
もっとも……屋敷の中を移動している時の使用人たちの視線を鑑みるに、大々的に戦った上で倒したところでボクの評判が下がるようなことはなさそうなんだけどね……。
ジョンの部屋を出ると、ジェイクが部屋の前で待っていた男たちを連れて一足先に外に向かったが、その際にボクをひと睨みしていたあたり戦意は高いようだ。
しっかりと叩きのめさないと納得しなさそうだな。
どうしたもんか……と廊下を歩きながら考えていると、「アリス」と後ろから声がかかった。
「何ですか? ジョンさん」
「うむ……君はジェイクに勝てるか? アレは子供の頃から村に立ち寄る傭兵たちに手ほどきを受けている。頭は悪いが腕っぷしは決して弱くないぞ?」
実の父親ながら中々辛辣な言葉ではあるが、ジェイクの力を評価している辺りちょっとお眼鏡のピントはズレているようだ。
あるいは、彼も戦闘経験はほとんどないのかな?
何にせよ、「勝ちますよ」とボクは即答する。
それを聞いて、ジョンは「……そうか」と弱々しく答えた。
「……?」
息子が負けることになるが……それでここまで彼が消沈するだろうか?
何か事情がありそうな気もするが、他にそれを知っていそうな者といえば、先程からずっと不機嫌そうな表情の母と困り顔のエリーゼ様くらいだ。
ついでに母は二人を睨み続けているし、この状況で何があったかを聞き出すのは難しいかもしれない。
まぁ……ボクがやることといえばジェイクを倒すだけだし、余計なことは考えなくていいか。
◇
屋敷の裏手に出ると、ボクの周りには兵たちが集まりジェイクの周りには彼の取り巻きが自然と集まった。
母たちは離れた場所で審判役としてこちらを見ている。
どうやって勝ち負けを決めるのかと思っていたが、試合みたいな形になるんだな。
素手ってことはないだろうし……木剣でも使うのかな?
「アリス嬢」
ジェイクたちを眺めていると、いつの間にやら周りの兵たちがボクを囲んでいる。
「うん? 何ですか?」
「先程はリリアナ殿がいるから話せなかったが、お嬢様からの伝言がある」
「……エリーゼ様の?」
「まず簡単に何があったのかを伝えておこう。ここを発つ前にお嬢様がジョン殿に挨拶をしに行ったのだが、その場でアレが騒ぎ始めた。内容は言うまでもないな?」
「団長の件ですね」
早朝一度話が終わったと思ったら、エリーゼ様がいる場でまた混ぜっ返したのか。
よっぽど不満だったんだろうな。
ただ……ジョンも頭が悪いとか言っていたが想像以上みたいだ。
「その場でリリアナ殿が窘めたのだが、我々の口からは伝え辛い言葉をジェイクが彼女に向けて発して……ハッキリ言ってかなりマズい状況にある」
何を言ったのかはわからないが……この様子だと相当マズい言葉を言ったんだろう。
それで母がお冠なのか。
馬鹿だなぁ……と呆れていると、こちらに近づいてきていたジェイクの取り巻きの一人が「おい!」と声をかけてきた。
「ジェイクさんが用意した。使え!」
そう言って突き出してきたのは、鞘に納められた長剣だった。
どうやらジェイク側は試合じゃなくて真剣勝負をやるつもりらしい。
……困ったな。




