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屋敷に入ってすぐの玄関ホールには、使用人たちだけじゃなくて何人もの村の男たちも待っていて、揃ってホッとしたような表情でボクを見た。
事情を聞く間もなく昨日も話をしたジョンの部屋に案内されたんだが……部屋の前には今朝ジェイクと一緒だった男たちもいる。
アレから何があったのかはわからないが……どうやら村の大人たちにこっぴどく叱られたようで、今朝の騒ぎっぷりからは考えられないくらい意気消沈していた。
彼らの様子も気にはなるが、とりあえず中に入ったらわかるから……と、中に通されたんだが。
「……うわぁ」
部屋の中を見て思わずそんな声が漏れてしまった。
まずは正面の自分の席についている不機嫌そうなジョン。
その隣にジョンよりもさらに不機嫌そうな母。
そして、さらにその隣に申し訳なさそうな表情をしているエリーゼ様と、無表情のカイル。
部屋の中を見回すと、顔にいくつも青痣を作っているジェイク。
朝ジョンに一発殴られているのは見ていたが……ボクが屋敷を出てからさらに何発か殴られたようだ。
何があったのか……と思ったが、ボクの団長引継ぎの件かな?
ともあれ……ここに来るまでの間に聞いたよりも、もっと緊迫した状況みたいだ。
もしかしてボクにこの状況をどうにかしろって話なんだろうか……?
部屋の中を見て困惑していると、ジョンが疲れたような声で話しかけてきた。
「アリス。農場の視察に出ていたところを呼び戻して済まないね。事情は……聞いているか?」
「視察なんて大したもんじゃないですからいいんですけど……何でもボクが団長を引き継ぐことに不満があるんだとか?」
ここに来る間に兵から聞かされたことを伝えると、ジョンは「まあ……そうだな」と歯切れが悪い返答をした。
そのジョンに任せていると話が進まないとでも思ったのか、母が口を開いた。
「アリス、朝から出歩いているくらいだし体調は問題無いわね?」
「うん? うん……ぐっすり眠れたし調子はいいよ」
「結構。貴女が今言ったように、ジェイクは貴女が団長の座を引き継ぐことが不満なようよ。貴女と戦って自分が勝てば、自分を団長にしろ……なんて言っているわ」
「あらま」
ボクが団長になるのが不満……っていうよりは、自分が団長になりたいのかな?
そもそも彼は群狼戦士団とは無関係なのになに変なこと言い出すんだ……。
そんなことを言われたらジョンも母もエリーゼ様も、こんな雰囲気になってしまうよ。
「戯言と切り捨ててもいいけれど、不満をため込んでそのうち何かやらかされる方が困るし、今なら騎士団がいるでしょう? 彼らに立ち会ってもらってさっさと決めた方が面倒がないわ。くだらないことで戦わせてしまうけれど、引き受けて頂戴」
母の言葉にジェイクに視線を向けると、視線に気付いた彼はこちらを睨みつけてきた。
青痣がいくつもあって、睨んできたところで滑稽なだけだが……彼は精一杯ボクを威嚇しているつもりなんだろう。
「まぁ……構わないけれど、ボク素人だし手加減は出来ないよ?」
ボクの言葉が気に入らなかったのか、ジェイクが「てめぇっ!!」と激昂したが、すぐにジョンに怒鳴られ黙り込んだ。
「どうなっても知らないよ?」
意味のないことなら好んで戦おうとも思わないが、それでも必要なことみたいだし……仕方がないが戦うこと自体はいいだろう。
ただ……ジェイクを見た限り彼はあんまり強くない。
少なくとも、ボクよりはずっと下だ。
ボク自身は素人でも、生まれてこの方ずっと傭兵に囲まれて暮らしていたんだし、強いか弱いかくらいは見るだけでなんとかわかる。
こうやって改めてじっくり観察するとわかるが、彼はほとんど素人みたいなもんだ。
村の警備がどうのとか言っていたが……恐らく村の若者引き連れて歩いて回るチンピラみたいなもんだろう。
戦闘訓練は積んでいないが、魔力の操作はコツコツ続けているボクが負ける道理はない。
問題は……やり過ぎないかどうかだ。




