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「全く……何をしているの?」
ジョンの唐突な鉄拳制裁に、ボクの中で下がっていた彼の評価が少し持ち直している間に、同じく騒ぎを聞きつけてきた母も部屋から出て来ていた。
そして、玄関ホールの状況を見て察したようで、こちらにやって来ながら呆れたような声でそう言った。
ジェイクたちはわからないが、ジョンは気まずいようで小さな声で呻いでいる。
「籠なんて被って……貴女は何をしているの?」
「目が覚めたからちょっとお散歩をしていたんだよ。その途中でおじさんに会って、村の案内をしてもらってたんだ」
「村? ……ああ、話を聞いていたのね」
「そうそう。それで、広場の辺りを歩いていた時にアッチの人たちに絡まれたんだ。揉めるのもなんだし、屋敷に行くって言うから一緒に来たんだけど……」
屋敷につくなり騒ぎ出した結果ああなった……と言おうとしたが、母が「もういいわ」と遮った。
「……とりあえず貴女は部屋に戻りなさい。後で呼びに行くわ」
母は大分イラついているようだが、その対象はジョン親子たちにであってボクではないらしい。
もっとも、切っ掛けはボクが一人で出歩いていたからだし、巻き込まれたおじさんには申し訳ないが……ここはさっさと退散してしまおう。
人が集まり始める中、ボクはそそくさとドアから出て行った。
◇
離れの家に戻ると、子供たちはまだ起きてはいなかった。
代わりに屋敷の使用人たちが来ていて、食事の用意を始めている。
昨晩もそうだったし、ボクたちは落ち着くまでの間は基本的にここで過ごすことになるんだろう。
先程の屋敷の状況を考えると、あちらも何かと複雑そうではあるし……その方が気が楽でいいな。
とはいえだ。
なんでもかんでも任せっぱなしってわけにもいかないだろう。
仕事を始めるようになったらどうなるかわからないが、今はまだやることもないし、手伝えることがあれば手伝っておこう。
彼女たちも使用人という立場ではあるが……村の女性が働きに来てくれている……ってところだろうし、親睦を深めておいて損はないはずだ。
「お早うございます。何か手伝うことはありますか?」
ってことで、ボクはキッチンに向かうと、そこで働いている使用人たちに向かって手伝いを申し出た。
昨日ここにいた使用人たちと同じメンツだし、簡単な挨拶をした程度ではあるが初対面ってわけでもない。
顔を隠す物が無いのは落ち着かないが、不審に思われない程度には振る舞えるだろう。
彼女たちも、ボクが唐突にキッチンに現れたにも関わらず、動じた様子も見せずに仕事をしながら返事をしてくる。
「お早うございます。もう起きていたんですか?」
「ウチの子にも見習わせたいわ」
「ウチの子もよ。ぼっちゃんと一緒になって警備員の真似事するのもいいけど、ちゃんと仕事をして欲しいわ……」
そう言って笑っている。
最後の人の子供……もしかしたらあの中にいたかもしれないね……。
ともあれ、ボクもキッチンの中に入っていくと、彼女たちの纏め役らしき年長のおばさんが手を止めてこちらを見る。
「えー……と、手伝ってくれるのはありがたいけれど、何が出来るんだい?」
「何を作るのかわからないし、この辺りの料理のレシピは知らないので鍋の面倒は見れませんが……切ったり洗ったりなら出来ます」
「それなら野菜を切ってもらおうかね。向こうの兵隊さんの分もこっちで一気に作っちまうから量が多くてね」
おばさんはそう言うと、余っているエプロンをこちらに渡してきたので、ボクはそれを受け取るとすぐに身に着けて、彼女たちの中に入っていく。
「……アンタ、リリアナ様の娘さんなんだよね?」
「そうですよ」
「顔は似てるけど……あんまり中身は似てないみたいだね」
「ボクはずっと父の下で暮らしてましたからね」
その言葉に納得できたのか、おばさんは腕を組んで何度も大きく頷いている。
「グレイ様か……まあ、それもそうかもね。よし……それじゃーお喋りはこのくらいにして一気に片付けるよ」




