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「ぼっちゃんは止めろって言ってるだろう……それよりも、ソイツがアリスだな?」
ぼっちゃん呼びが不服なのか、不機嫌そうな態度を露にしている。
おじさんは「すいません」と頭を下げているようだ。
そして。
「お嬢ちゃん、こちら村長のジョンさんの長男のジェイクさんだ」
ジョンさんは住民から村長と呼ばれているのか。
ここが村扱いされているってのは先程聞いたが……随分と本格的だ。
そうなると、彼は次期村長かな……とかくだらないことを考えていると、別の若い男の声がする。
「……なんでソイツ籠なんて被ってるんだ?」
どうやらジェイクは一人じゃなく、何人も引き連れているようだ。
こんな早朝から……暇なのかな?
ともあれ、途中で見つけた籠を被っているボクが気になるらしい。
もっともな話ではあるが……つまり彼らはボクのことをよく知らないみたいだ。
少なくとも、おじいさんやジョンさんや母とは関りが浅い連中なんだろう。
「なんでもその方が落ち着くとかで……。それで、ぼっちゃん、ウチのバカ息子まで一緒ですが……ゾロゾロ引き連れて何の用でしょうか?」
「なに……ソイツにちょっと用事があってな。」
「……一人の女の子を相手にするには人数が多すぎやしませんかね?」
ジェイクは次期村長……の割に素行があまりよくないのかもしれない。
おじさんの声は自分の息子も一緒だというのに、随分と険がこもっている。
「どこかに連れ込む……なんて真似はしねぇよ。屋敷に戻るだけだ。なんならおっちゃんも来るかい?」
「……そうですね。アリスさん、構わないかな?」
「うーん……もう少し見て回りたかったけど、仕方ないですしね。いいですよ」
まだ広場周辺を軽く見て回っただけだし、施設も何も見れていないようなものだが……ここで文句を言っても仕方がない。
彼らの目的はわからないし無視してもいいんだが……大人しく従おう。
「よしっ! 行くぜ!」
ボクが頷くのを見たジェイクは、そう言って屋敷に向かって歩き始めた。
◇
「戻ったぜ」
ジェイクは大きな声でそう言うと、屋敷の中に入っていく。
そのジェイクに続くように、同行している男たちも玄関ホールでなにやら騒いでいる。
籠越しにだが、使用人たちが困っている様子がよくわかる。
実はここに戻って来るまでの間、彼らは一言も喋ったりしなかった。
誰とも出くわすことがなかったから、威張ったり悪ぶったり出来なかったんだろう。
ボクの中で彼らの印象は、もうただの精一杯悪ぶっているだけのチンピラになっている。
ボクの隣を歩いているおじさんが小さく溜め息を吐いているし……あながちその感想も間違ってはなさそうだ。
前世のボクになら効果はあっただろうが……既に実戦を経験している今のボクにただうるさいだけだ。
彼らのリーダー役のジェイクはもちろん、ジェイクを放置しているジョンの評価も下がって……。
「何を騒いでいる!」
ボクも溜め息を吐いていると、玄関ホールにジョンの声が響いた。
見ると昨日のような恰好ではなく、寝巻のような恰好だ。
この騒ぎを聞きつけて飛び起きてきたんだろう。
「ジェイク! ……それにアリスも? 早朝から何をしている!」
ボクまで一緒にされたのは不本意だが、ジョンの剣幕に騒いでいた彼らが急に大人しくなった。
先程彼の評価が急降下してしまったが、ちょっと持ち直したかな?
「一体何があったんだ?」
その剣幕のままジョンがこちらまでやって来ると、黙っている彼らを無視して、一緒に屋敷までついて来たおじさんに事情を訊ねた。
「仕事の準備をしながらアリスさんに村の案内をしていたんですが……ぼっちゃんが……」
一通り事情を聞いたところで、ジョンは大きく溜め息を吐いた。
そして。
「ぐわっ!?」
「痛ぇっ!」
と、一人ずつ殴っていった。
もちろん、息子のジェイクもだ。




