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「ここってどんな感じの場所なんですか? 初めて来たし……そもそも話も聞いたことなかったんですよね」
ボクの言葉におじさんはキョトンとした表情を浮かべたが、すぐに合点がいったようで「ああ」と頷いた。
「生まれたからずっと親父さんと一緒にいるんだよな。俺も娘さんが生まれたってことは聞いていたが……こっちじゃ話題に出ることはほとんどなかったからな……」
自分の言葉に納得するように「そうだそうだ」と何度か頷くと、おじさんは顔を上げてこちらを見る。
「準備中だから歩きながらでいいならいくらでも話せるぞ。何か聞きたいことがあるのか?」
「そうですね……」
ボクは何を聞こうかなと考えながら、歩き始めたおじさんの後をついて行った。
◇
おじさんについていきながら話を聞いて分かったことがいくつかあった。
まず、ここは周辺の人間や行商人の間ではビーンズ村と呼ばれているそうだ。
そんなものは実際には存在しないし、ここはあくまでラカンパの街の敷地内にある農場の管理施設なんだが……実際に来て直接見てしまえばその呼び方にも納得出来るだろう。
住人も街と行き来している者を含めたら百人を超えているそうだし、むしろなんでこれが許されているのか不思議なくらいだ。
エリーゼ様は知らなかったみたいだし、もしかして領主側は認知していない……なんてことはないよね……と少々不安になったが、まぁ、それはおじいさんやジョンさんたちが考えることで、ボクには関係のないことだ。
それと。
「……農場の警備かい?」
「そうです。どんな風になっているのかなって」
「そうだなー……収穫前は人を雇って警備もするが、大体は村の若い者が夜番をしているよ。まあ、この辺は治安がいいしね。泥棒が出るのは年の一度有るか無いかくらいだよ」
「あら……」
ここの警備をボクの仕事の一つとして期待していたんだが……もしかして必要ないのかなと考えていると、おじさんが笑って続ける。
「親父さんたちが周辺を見回ってるからな。悪いことを考える奴なんかいないさ。群狼戦士団だっけ? 凄いよな。おじさんが子供の頃はしょっちゅう泥棒が出ていたんだけど、彼らがこの辺りを見回るようになってからすっかり姿を見せなくなったよ」
「へ……へー……」
ヤバいと思いつつも何とか声を絞り出した。
その群狼戦士団は一昨日崩壊したばかりだ。
ボクが一応引き継ぐことにはなったが、抑止力としての効果がどこまであるか……。
しかし、今の話を聞いて改めて群狼戦士団の重要さがわかった。
自分たちでも対策はしているとはいえ、これだけの広さを全部カバーするのは大変だし、手を出させないためにも抑止力が必要なんだろう。
その役割を担っていたのが群狼戦士団だからこそ、おじいさんや代官がエリーゼ様にアレだけハッキリと言い切っていたんだ。
ちゃんと立てなおさないといけないよな。
頑張ろう。
そう決意を新たにしているボクを他所に、おじさんは話を進めているが。
「ただ……人間以外にも警戒しないといけないからね」
気になることを口にした。
「人間以外って……獣とかですか? 近くに森もあるし、イノシシとかシカとかかな?」
他にもウサギやネズミだっているかもしれないが、わざわざ人を配置してまでとなると大型の獣が相手だろう。
狩りの素人が手を出すのは危険な相手だが、今のボクなら槍でもあれば十分仕留められるはずだ。
「それもあるが……おや?」
何かを言おうとしたおじさんが足を止めると、前から若い男の声がした。
「お前がアリスか」
どうやらボクに用があるらしい。
こんな朝からご苦労なことだが……いったい誰なんだろう?
ここに来てから会った者の中に若い男はいなかったはずだが……と首を傾げていると、おじさんが彼が何者かを教えてくれた。
「お早うございます、ぼっちゃん」
ぼっちゃん……この若い男はビーンズ家の誰かっぽいな?




