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「んっんっー……ぐっすり眠れてしまったね」
目を覚ましたボクはベッドの上で体を起こすと、両腕を上げて大きく伸びをしながらそう呟いた。
昨日は母たちとの話し合いを終えて用意された部屋に戻ってしばらくすると、敷地内の探検に出ていた子供たちも、案内役の使用人たちと一緒に戻って来た。
ありがたいことに、敷地の探検の最中に子供たちとついでにボクの着替えも何着か用意してくれていて、それも一緒に部屋に持って来てくれていた。
森の中を一日移動していたから汚れていたのに、着替えなんて持ち出す余裕はなかったから、これは非常に助かる。
その後は、母との話を終えたエリーゼ様が挨拶に来たんだが、「また明日」と言って兵たちがいる家に向かった。
母もこちらに顔は出さずに本館に戻って行ってしまったし、何かと激動の一日ではあったが……無事乗り切ることが出来たらしい。
用意された夕食を終えると、ボクも子供たちも人心地ついて気が抜けたのか眠気が襲ってきた。
それで、各々の部屋に戻って床に就いたのだが……中々ちゃんとしたベッドだったようで、あっという間に眠ってしまったらしい。
昨日の村での介抱された際を除けば、この世界に生まれて初めてのまともな寝具だったんじゃないだろうか。
ぐっすり眠った上に疲れもすっかり取れている。
木戸を閉めているから部屋の中は真っ暗だが、隙間から漏れてくる光でもう朝なのはわかる。
「……よいしょっと」
窓辺まで行って木戸を開けると、ひんやりした空気が部屋に入って来る。
ボクらが普段野営している場所よりも心なしか空気が冷たい気がするが……場所のせいかな?
「……うん? もう外に人が出ているみたいだね。何かの準備……農業の人たちかな?」
この家は敷地の奥の方に建っていて、外の様子はあまり見えはしないが……前世と違って朝から車が走ったりしているわけでもなく、耳をすませば生活音が聞こえて来た。
そこに混じって、重たそうな物を引っ張り出したり何かに積んだりするような音がしているし、農地に出る準備か何かだろう。
「……ちょっと行ってみようかな」
子供たちは昨日案内されていたが、ボクは本館とこの離れしか見れていない。
今ならまだ外に出ている人も少ないだろうし……ゆっくり見て回れそうだ。
ボクはササッと寝癖を整えて上着を羽織ると、「よしっ!」と呟いて窓から飛び降りた。
◇
「本当に広いよね。元々ここがビーンズ家が村長を務めていた村だって話だけど、そもそもこの村自体が大きかったんだろうね……」
コソコソと建物の陰に潜みながら敷地内の様子を見て回っているが、とにかく広い。
そして、恐らくここの住人が暮らしているであろう建物は、戸建てじゃなくて集合住宅のようなものばかりでどれも大きい。
比較出来るほどこの世界に精通しているわけじゃないし、精々昨日一時お世話になったあの村との比較になるが、ここはちょっと他とは違うみたいだ。
建物のデザインや配置にも統一性があるし……しっかりリーダーシップを発揮した人がいるんだろうな。
大したもんだ……と感心しながらコソコソしていると。
「あんた?」
突然の背後からの声に驚いて、「わぁっ!?」と叫びながら慌てて振り返ると、小太りのおじさんがギョッとしたような表情とポーズで固まっていた。
ボクの声に驚いたんだろう。
「お……おお、悪い悪い。確かアンタ……リリアナ様の娘さんだよな? 昨晩話が回って来たぞ」
ボクは一度叫んだことでちょっと落ち着いたが、彼はまだ落ち着けていないようだ。
慌てた様子で話し始めた。
どうやら昨晩のうちにボクたちことは簡単にだが伝わっていたようだ。
もちろん、あくまで簡単に……であって、群狼戦士団の件やエリーゼ様の件までは知らされずに、ボクが団の子供を連れて母を訊ねてきた……って程度らしい。
まぁ、決して間違っているわけではないし、余計な混乱を避けるためには丁度いいと思う。
ともあれ、ボクはそれを前提に彼と話をしてみることにした。




