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ビーンズ家を含むラカンパの街一派と領主一族との衝撃的な話をした母は、もう一度「自分は思うところはない」と言うと、エリーゼ様をジッと見る。
「アリスが群狼戦士団を引き継ぐことは決まったし、貴女がアリスに協力することも私は止めはしないわ。ただ、その方法はよく考えなさい」
「……その方が良さそうですね。忠告感謝します」
今日起きたことだしまだ計画なんて立ててはいないと思うが、それでも早い段階で修正出来たのはいいことだろう。
……というよりも、途中でアレコレ変更するようなことがあるとボクが対応出来ないかもしれないし、今日のウチに方針を定めることが出来るのは助かった。
ホッとしていると、今度は「アリス」とボクの名を呼んだ。
「貴女……どれくらい出来るのかしら?」
「……何を?」
「傭兵としての仕事よ。群狼戦士団の団長の座を継ぐのはいいけれど、どうするつもり? 貴女も現場に出るの? それとも裏に回るつもりなの?」
「まだわからないけど……どの道、団には今は人がいないでしょう? しばらくはボク一人でやっていくつもりだよ」
ボクがそう言うと、母は「本当に……?」と疑わしい眼差しでジロジロとボクを見て来る。
そして、エリーゼ様に視線を移した。
「他人を率いることが出来るかまではわかりませんが、戦闘能力という点では私の隊に入っても遜色ない実力はあります。このラカンパの街周辺で仕事をするだけなら十分過ぎるほどです」
それを聞くと「それほど……?」と胡乱げな眼差しを向けてくるが……溜め息を一つ吐いて何かを言おうとしたようだが、窓の外から聞こえて来た子供たちの声に遮られた。
この敷地の案内をしてもらっていたはずだが、もう見て回ったんだろうか?
只話しているだけなのに、思ったより時間が経っていたのかもしれない。
「見て回ってきたようね。アリス。貴女はもういいわ。行ってあげなさい」
母はむしろ「邪魔だから出て行け」とでも言いたげな口調でそう言うと、ドアの方を指差した。
確かに今日の時点で話しておいた方がよさそうなことは話したし、もう部屋を出てもいいとは思うが……どうしたもんか……とエリーゼ様を見ると、彼女は笑みを浮かべながら頷いた。
「私はまだリリアナさんと話すことがありますから、先に部屋に向かって下さい。また夜にお話をしましょう」
「……わかりました」
ボクはエリーゼ様に返事をして部屋を出ると、用意された部屋に向かうことにした。
◇
「……さっきの部屋と同じような感じだね。子供たちの部屋も後で見させてもらおうかな」
自分用の部屋に入って軽く見て回ったが、先程の部屋と同じ一人用の部屋って感じだ。
ともあれ、室内に変わりはないし……外でも見るか。
この窓の位置だと丁度家の裏側だろうし、敷地の外も見えるかもしれない。
「よいしょっ……っと」
重たい木戸を開けて頭を出したんだが、外の様子を窺う前に下から「お姉ちゃんっ!!」と声がした。
「あれ? 皆まだ家には戻ってなかったんだね?」
下を見ると、子供たちが丁度窓の下に来ていた。
すぐ側に使用人らしき大人が三人もついているし……万全の態勢で案内されていたようだ。
「もう見て回って来たのかな?」
下に向かって大きな声で訊ねると、子供たちは両手を振りながら口々に敷地の様子を答えてきた。
外から見た雰囲気だけならボクたちの野営地とそうかけ離れていないが、傭兵と農民と……中で暮らす人間がまるで違う。
それに、任務次第では移動を繰り返すボクらの野営地とでは、建物や施設も大違いだ。
子供たちも一目でそれがわかったようで、随分と興奮している。
そして、その子供たちを使用人たちが宥めている。
この状態の子供たちを見ながら、敷地内の案内までしていた使用人たちも大変だったろうな。
部屋からその様子を眺めながら、ボクは使用人たちに心の中で礼を言っていた。




