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「カイル、ここは安全ですよ。貴方も移動している間に確認をしたでしょう?」
「……わかりました。それでは、私は仲間と合流しておきます」
そう言ってカイルはドアから離れると、他の兵たちが滞在している建物に向かおうとしたんだが、その背中に母が声をかける。
「敷地内の移動は好きにして構わないけれど、武器を携帯しているようだと警備の担当に警戒されるから気を付けなさい」
注意なのか警告なのかわからない母の言葉に、カイルは振り返って「……わかった」と答えが、振り返った瞬間怒りのせいなのか表情が歪んでいた。
……アレはもう大分怒っているな。
母もわかっているだろうに敢えてあんな言い方をしている節があるし……やはりビーンズ家と領主とは確執があるみたいだ。
何か難しそうだな。
「アリス」
これからボクはどの立場で動いて行けばいいんだろうか……遠ざかっていくカイルを眺めながら考えていると、既に中に入っている母から「早く来なさい」と急かされた。
「……うん」
気になることはたくさんあるが、目の前のことを一つずつ片付けて行くか。
まずはこっちからだ!
ボクは足早に建物の中へと歩いて行った。
◇
「……広いねぇ」
中に入ってまず出た言葉がそれだった。
この建物は二階建てなんだが、一階は玄関から入るとすぐに大きな広間と繋がっている。
奥に他の部屋に繋がるドアもあるが、外観から考えると一階の大半はこの広間が占めているはずだ。
ちなみに、二階への階段は玄関のすぐ横にある。
一階の状況を気にせず出入り出来るのは気楽でいい造りだ。
それにしても、どれくらいの広さだろうか……テニスコートくらいかな?
「あら? 子供たちがいないわね?」
ボクが広間の広さに驚きながらキョロキョロしていると、母は子供たちの姿が見当たらないことに気付いて首を傾げた。
言われてみれば、あの子たちはココに案内されているはずだ。
一人や二人ならともかく六人もいて誰もいないなんて……。
「そういえばいないね? 二階かな?」
「いえ……二階には子供の気配はありませんね。使用人らしき者はいるようですが……」
どうしようか……と三人揃って困惑していると、一階に誰かが来たことに気付いたのか、二階から使用人が下りてきた。
「あっ? リリアナ様……旦那様のお話はもう済んだんですか?」
「ええ……群狼戦士団の子供たちはどうしたの?」
「ああ……初めは家の中を見て回っていたんですが、外が気になったようなので、今は皆で見て回っています。……あの子たちもここで暮らすことになるんですよね? それなら早い方がいいかなと思ったんですが……何かマズかったでしょうか?」
「いえ……そんなことはないわ。そうよね?」
母は返事をしつつもこちらを見て、良かったかどうかを訊ねてきた。
「うん……むしろありがたいです」
ボクは母の言葉に頷くと、下りてきた使用人に礼を言った。
野営地の襲撃から逃げ出してまだ一日そこらではあるが、一先ずココがこれから落ち着く先だってことは馬車の中で話している。
野営地と少し似てはいるが規模も暮らす人たちもまるで違うし、どんなところなんだろう……って気になったんだろう。
危険な場所ってわけじゃないし、ちゃんと引率者がいるのなら迷子になるようなこともないし問題無しだ。
「二階を使わせてもらうわ。空いている部屋は?」
「子供たちは手前の二部屋にしています。それと……そちらのアリスお嬢様? のお部屋はその奥です。それ以外の部屋はどこでも使える状態ですよ」
「そう。それなら一番奥の部屋を使わせてもらうわ。時間はそこまでかからないと思うけれど……人を近づけさせないで頂戴」
母の言葉に使用人は「わかりました」と言うと、二階にいた他の使用人にも声をかけて一階へ下りてきた。
そして、彼女たちと入れ替わるようにボクたちは二階に上がっていく。




