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ジョンとの話を終えたボクたちは、母の案内で離れへ向かうことになった。
離れは屋敷の裏手にあるそうで、玄関から向かうと大分遠回りになるため裏口を利用することになったんだが……当然屋敷の中を移動することになる。
既にボクたちのことが広まっているのか、ジョンの部屋に向かった時よりも出くわす使用人の数が多いし、集まる視線も多い気がする。
「アリス。みっともないから顔を上げなさい」
知らず知らずのうちにその視線を避けるように顔が下を向いていたらしく、母から注意をされてしまった。
「……何か被るものないかな」
「どうしても必要なら手配するけれど、今日は諦めなさい」
「……はーい」
仕方がない。
落ち着かないが今日は諦めて顔を出しておこう。
とりあえず必要だから手配してもらうとして……どんなのにしようかな。
ここは今まで通りの麻袋にするか……それともエリーゼ様から借りていた仮面にするか。
耳が出ている分周囲の音が聞こえやすいし、仮面の方がいいかな?
そういえばあの仮面は白鉄……だったかな?
何か謎の素材で出来ているみたいだが、便利だったし同じ素材の物を用意出来ないだろうか。
それと……何かワンポイント入れてもらおうかな。
騎士団の紋章は駄目みたいだけれど……何かボクらしいデザインは……と、そんなことを考えながら、素顔で人がいる場所を歩く緊張を誤魔化していた。
◇
屋敷の裏口から出て100メートルほどのところに離れは建っていた。
ボクが言葉からイメージした離れは、ちょっとした小屋みたいな建物だったんだが……実物は大分違っている。
大きい二階建ての立派な建物で、前世ならこれも立派なお屋敷だといえるだろう。
さらに、少し離れたところに同じような建物が数軒建っているし……。
「……どんだけ広いんだよ」
ボソッと漏らしたボクの言葉に、母が「何を言っているの……」と呆れたような声で反応する。
「ジョンの話を聞いていなかったの? ここは元々あった村をそのまま利用しているのよ。アリスたちはその正面の小屋を。残りはエリーゼ様と、同行した兵たち用にしているわ」
先程ジョンはここの住人と兵が揉めることを警戒していたし、それならいっそ離れた場所で関わり合わないようにしてしまえばいい……って考えか。
ここなら屋敷を周り込みでもしない限り辿り着かないし、偶然ここの住人と遭遇する……ってことはないだろう。
エリーゼ様はその気遣いに感謝しているようで、母に「助かります」と頭を下げた。
さて、そんなことを話している間にボクたちが利用することになる建物のドアの前に到着したんだが、カイルがそのドアに手を伸ばそうとしたところで、母から待ったがかかった。
「ここに立ち入ることが出来るのは女性と子供のみよ。貴方は向こうに行きなさい」
そう言って、他の兵たちが滞在している建物の方を指した。
「なっ!? お嬢様をお一人にしろと言うのかっ!」
ラカンパの街から続いて、エリーゼ様がこちらでもぞんざいに扱われていることを堪えていたが、いよいよカイルも我慢の限界だったらしく、大きな声で母に抗議を始めた。
だが、母は全く堪えた様子を見せないでいる。
それどころか「不満なら出て行きなさい」とまで言い放った。
エリーゼ様にはまだ聞きたいことがあるし、ここで出て行かれてしまっては困ったことになる。
カイルには何とか引き下がって欲しいところだが、命を狙われた直後なだけに彼が警戒する理由はわからなくもない。
ここがどれだけ安全な場所だとしても、それで守りを解いていいって理由にはならないだろう。
だからといって、母が言っていることにも一理ある。
とりあえず、ここはビーンズ家の敷地だし分が悪いのはカイルの方だ。
どうしたら……と、意見を求めようとエリーゼ様を見ると「わかっています」とばかりに、彼女はボクに向けて頷いてみせた。




