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「失礼、待たせたね。まずは……」
母からの報告を聞き終えたジョンはそう言うと、ボクに視線を向ける。
つい癖でうつむきそうになるが……「アリス」と母の声でそれを止められる。
母の報告は小声で行われていたため内容まではよくわからなかったが、どうやらボクの性格までは伝えていないようで、ジョンはどうしたのかと不思議そうな表情を浮かべている。
「気にしないで進めて頂戴」
母は話を先に促すように手で払うような仕草を見せると、ジョンは「ああ」と頷いた。
「初めて会うが……君がアリスだな?」
「はい」
「……ふむ。聞いていた話と大分違うが……まあ、何か事情でもあったんだろう。爺様や街の方でも異論はないようだし、群狼戦士団の件は承知した。君も、君が連れてきた団の子供たちも一先ずここで預かろう」
顔のことを言っているんだろうが……あまり細かいことにはこだわらない性質らしい。
それよりも、当主であるお爺さんや母が預かると言っていたから大丈夫だとはわかっていたが、それでもここの責任者である彼からもそう言ってもらえたことで、ボクは「ありがとうございます」と礼を言った。
母の実家に相談して一先ずの生活拠点を見つけよう……というのがボクの目標だったが、思っていたより規模が大きかったり関わる人間の立場が高かったりはしたものの、何とか目標は達成出来たみたいだ。
「うむ。子供たちはここの住人の子供たちと同じような扱いになるだろう。昼の間は農作業の手伝いはしてもらうが、読み書きと簡単な計算は教えているし食事も出る。君たちが今後どうするつもりかはわからないが、将来を考えても悪い環境ではないはずだ」
要は家の手伝いだ。
敷地内を移動している際に中を見たが、少なくとも過酷な暮らしをしている様子はないし、悪い環境どころかむしろいい環境と言えるだろう。
胸をなでおろしているボクを安心させるように、ジョンは穏やかな口調でそう続けた。
「はい」
ウチの子供たちの識字能力はギリギリ自分と親しい者の名前の読み書きは出来る……って程度だ。
年齢を考えたら十分な気もするが、この世界の学力水準を知らないし……世の中を知れるのはありがたいな。
ボクは前世の知識があるから当然計算は出来るし、読み書きも自力で身に着けたが……基本を覚えるためにもちょっと参加させてもらおうかな?
「離れに部屋を用意するから、リリアナに案内してもらうといい。さて……後はエリーゼ様たちか。今日はこちらに滞在するそうですな?」
ボクに話しかけていた時は穏やかな口調だったが……ジョンの雰囲気が一変して冷たく硬いものになった。
お爺さんと母の時もそう感じたが……もしかしてビーンズ家は領主一族とはあまり仲が良くないのかもしれない。
一応ボクはエリーゼ様にも場合によっては名前を借りたい……とか思っているんだが、まずいんだろうか?
そんなことを考えてハラハラしながら、ジョンとエリーゼ様とで視線を行ったり来たりさせていると、エリーゼ様はまったく気にしない様子で「ええ」と頷いた。
「アリスさんともですが、ビーンズ家の皆様ともまだ話をする必要があると思っています」
エリーゼ様の言葉に、ジョンは「……まあ、いいでしょう」と答えると、席を立って窓の方へと歩いて行き、こちらに背を向けたまま話し始めた。
「どうにも他所の者には理解されがたいのですが、ここは元々ビーンズ家が治める村があった場所です。街にも我々の土地は用意されていますが……ビーンズ家の土地はここです。その意味は分かりますね? 騎士団を連れてくるのは構いませんが……まあ、余計な騒ぎを起こさないようお願いします」
ジョンの嫌味を隠す気のない言葉に、エリーゼはニコリと笑いながら「ええ、もちろんです」と答えた。
「結構。それでは、もう行って構いません。リリアナ案内は任せた」
「ええ。行きましょう」




