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代官の屋敷の時と違って、ビーンズ家の別邸は使用人が出迎えに並ぶ……なんてことはなく、母に促されて屋敷の中に入ってからは、母の先導で中を移動している。
ちなみに、エリーゼ様と一緒にここまで来た兵たちは、邪魔だからと屋敷に入って早々にカイルを残して別の場所へ移動させられた。
そして、ウチの子供たちも使用人に案内させてどこぞへ連れていかれた。
代官の屋敷の時もそうだったが、子供たちの案内する使用人たちは皆子供になれているから心配はいらないらしい。
子供たちが大人しく従っているのは、馬車の中でのやり取りで母のことを信用出来る大人だと判断したからだろうか?
……ボクの保護者としてのプライドが揺らぎそうになったが、そんなことで対抗心を燃やしても仕方がないし、ちゃんとした人間なら任せてもいいだろう。
ともあれ、ボクと母とエリーゼ様とカイル。
この四人で屋敷の中を歩いているんだが……如何せんこの建物は広い。
階段をスルーしているから一階のどこかに向かっているんだろうが……。
「ねぇ、どこに向かってるの?」
「奥の応接室よ。そこにおじ様の孫……次期当主が待っているわ」
前を歩く母が足を止めて振り返って答えたが……呆れたような声で「それよりも……」と続ける。
「貴女、何うつむいて歩いているの?」
「……顔が出てるから」
「それに……お二人のその並び方は?」
ボクたちの並び順は母を先頭に、カイル、エリーゼ様、ボクとなっている。
並び順を見ただけなら領主の娘であるエリーゼ様を守るための配置で、何もおかしなことはないんだが……前から見ると実は違うことに気付くだろう。
外に面した窓側をカイルが歩き、エリーゼ様が壁側を歩き……二人の間に挟まれるようにボクがうつむきながら歩いている。
守られている対象はエリーゼ様じゃなくて……ボクだ!
「アリス嬢はあまり人に素顔を晒すことに慣れていないらしい。我々が手を貸すことではないが……これから話をするのに彼女がまともな状態でなければ困る」
この屋敷は代官の屋敷ほど人は多くないが、それでも使用人がいるし……敷地内には人がいて通りがかり際にこちらを見てきたりする。
麻袋や仮面があれば平気なんだが……今は取り上げられて何もないから、視線がダイレクトにボクに来てどうにもこうにも……。
「貴女……」
母は深い溜息と共に何かを口にしそうになったが何とか飲み込むと、「まあ……いいわ」と前を向いてまた歩き始めた。
◇
案内された次期当主が待つ部屋は、次期当主の部屋というには狭いし地味なものだった。
大きな机とその後ろの壁にビーンズ家の旗が掲げられているのと、書棚に図鑑くらいのサイズのファイルが何冊も並んでいるくらいだ。
そうと知らなければ、この大きい屋敷の主の部屋だとは思わないだろう。
そして、その部屋の主も失礼な言い方になるが大分地味な見た目の男性だ。
年のころは三十半ばほどで、茶色の髪を短く切りそろえてよく日に焼けている。
少々太って見えるが……不健康な印象は受けない。
悪い人ではなさそうだ……ってのが、ボクの第一印象だ。
母から見て大叔父の孫……ということは、たしかはとこになるんだろうか?
「いらっしゃい。私がジョンだ。祖父から簡単に報告は受けているが……詳細を聞かせてくれ」
彼は挨拶もそこそこに母から報告を受けている。
名前も声も地味だが……エリーゼ様に目もくれないあたり実直なのか不愛想なのか判断に迷うな。
カイルはエリーゼ様の扱いに少々ムッとしているが、本人は気にせず二人の話が終わるのを待っているため、彼も何も言わないでいる。
代官の屋敷のお爺さんの態度でも何となく感じていたが……もしかしてビーンズ家は領主一族にいい感情を持っていないんだろうか?
どちらの事情も分からないボクは、早く話が始まらないかな……と居心地の悪さを感じていた。




