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ビーンズ家の別邸の敷地に入ったボクたち一行は中を馬車で移動しているが、その規模に圧倒されて言葉を失ってしまっている。
ラカンパの街に初めて入った時も確かに圧倒されたが、アレはあまりにもボクたちの普段の暮らしとは違い過ぎたからだ。
だが、この別邸は……ある意味野営地の延長線上に存在している。
馬車の窓から見える範囲ではあるが、あの農地で働いている小作人たちが暮らす複数の建物に、収穫物や道具を保管する倉庫らしき建物。
そこを行き来する住人たち。
さらには労働力として飼っているのか馬や牛までいるし、門の手前から見た時は砦のようだと思ったが、中に入ると砦と言うよりは小さな村のようだった。
ボクらが普段暮らしている野営地の規模を大きくして、さらに発展させた感じだ。
先程通った門が示すように敷地全体を木製ではあるが頑丈な柵で囲われている。
今日少しお世話になったあの村よりも守りは厳重そうだ。
群狼戦士団の野営地がここの何割か程度の防衛体制を敷いていたのなら、あの襲撃は弾き返せていたかもしれない。
領内を転々と移動するボクたちでは不可能なことではあるが……。
「うん? エリーゼ様?」
歯痒さを感じながら窓から視線を外すと、エリーゼ様も子供たちに負けないくらいの驚いたような顔で窓の外を見ていた。
仮にも領主の娘で、騎士団の一員として領内の見回りをしている彼女がどうして驚いているんだろう……と不思議に思っていると、彼女が隣に歩いてきた。
「ビーンズ家は合併前の村跡に別邸を構えていて、農場で働く者たちと共に暮らしていることは知っていました。ですが、ここまでの造りだとは知りませんでした……」
「……エリーゼ様でも知らなかったんですか?」
「領地に戻って来たばかりですし、まだ領地の全てを見て回れているわけではないのです。今は勉強中ですね」
やや失礼かもしれないボクの質問にエリーゼ様は笑って答えるが、目は笑っていない。
話題を変えた方がいいかな……と考えた時、窓にくっついている子供たちから歓声が上がった。
そして、馬車が向きを変え始めると、子供たちと一緒に窓の外を見ていた母がこちらを振り向いた。
「エリーゼ様、もう間もなく屋敷に到着します。降りる用意をお願いします」
◇
間もなく馬車は屋敷に到着して停車した。
同行していた騎士団の兵がドアを開けると、まずは母が降りていく。
それに続いてボクたちも降りて行った。
「……おぉぉ」
代官の屋敷に着いた時は中々振り向けなかったが、今回は違う。
馬車から降りてすぐに屋敷を見たが……大きい。
ラカンパの街の代官の屋敷は、前世のドラマや映画などで登場するような所謂二階建ての洋館だ。
中を全て案内されたわけではなかったが、それでも外観や少し中を歩いた限りでもしっかりと広さは伝わる、あの規模の街の代官の屋敷として威厳も役割もどちらも果たせる建物だった。
それに対してこちらは。
「街のお屋敷よりも大きいかも……」
「本当に。それに……向こうをご覧になってください。離れも建っていますよ」
この屋敷は大きさだけなら代官の屋敷よりは上かもしれない。
ただ、何と言うか……よく言えば学校で悪く言えば倉庫だろうか。
無骨な横に長い長方形の大きな建物だ。
三階建てなのは木製だからだろうか?
エリーゼ様と二人でポカンと見上げていると、母が「二人とも」と声をかけてきた。
「いつまでも呆けていないで中に入りますよ」
「ああ、失礼しました。少々珍しい建物で圧倒されてしまいました」
「初めて訪問した者は大抵そうなりますから、お気になさらず。……それよりも、アリス」
謝罪をするエリーゼに気にするなと言った母は、その流れでボクを見た。
「何?」
「仮面を外しなさい。それは騎士団の紋章が刻まれているわ」




