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商業区を通過して、街に入って来た時に通過した西門を再び通って街の外に出た。
エリーゼ様が乗る代官の賓客用の馬車に加えてビーンズ家の馬車も同行しているため、門を守る警備の兵たちが驚いた顔をしていた。
領地のお偉いさんが騎士団を伴って大勢の賊を捕らえて街にやって来たかと思えば、街の重鎮的立ち位置のビーンズ家と一緒になって、街の中じゃなくて外の方の屋敷に行くと言うんだ。
しかも兵を伴ってだ。
一体何事なんだろう……と思っただろう。
最終的には母とエリーゼ様が問題無いと言い切ったことで無事出発出来たが、二人が出て来なければあのまま門前で足止めをされていたかもしれない。
まだ暗くはなっていないが、そろそろ日暮れも近付いているし、警備の兵からしたら外に出て欲しくないだろう。
まぁ……アレだけの数の賊を捕らえるようなことが街の外で起きていた……って聞いたら、街の中で大人しくしてくれよって考えるのもわからなくはない。
もっとも、エリーゼ様は騎士団の人間が付いているし、母にいたっては自分の家に帰るだけなんだが……偉い人は大変だ。
さて、何はともあれ街の外に出たボクたちはビーンズ家の外の屋敷……別邸に向かって馬車を進ませた。
◇
街道の両脇に広がる農地を子供たちが興味深そうに眺めている。
街から少し離れたところでビーンズ家の別邸に繋がる脇道に入ったが、見える光景に変わりはない。
それでも子供たちが大人しく外を眺めているのは、コレが今から向かうビーンズ家の農地だと母から聞いたらだろう。
改めて見てみると、相当な規模の大農園だ。
それが今から行く家の持ち物だと聞けば確かに気になるだろう。
初め街に向かっていた時は、農地で作業をしている者たちの姿があったが、今はもうほとんど見あたらない。
ビーンズ家は日が落ちる前に作業を終わらせる決まりになっているそうだ。
母が子供たちに説明をしていたのをボクも聞いていたから知っている。
ビーンズ家は中々ホワイトな労働環境なのかもしれない。
「そろそろ見えてくるわ。少し坂になっているから皆ちゃんと席に座りなさい」
母の言葉に子供たちは素直に「はーい」と返事をした。
その様子を見てボクは首を傾げる。
……この子たちは決して聞き分けのない子供ってことはないんだが、それでも初対面の大人相手にここまで大人しく言うことを聞くような子供だったっけ?
そして、エリーゼ様は首を傾げるボクが不思議だったのか、後ろから「どうかしたんですか?」と声をかけてきた。
「え? いえ……なんか子供たちが大人しく言うことを聞いてるのが不思議で……」
「……子供は大人の言うことを聞くものではありませんか?」
「そう言われたらそうなんですけど……」
エリーゼ様の言葉に、ボクは野営地でのあの子たちの様子を思い出すが、元気一杯で中々大人の言うことを素直に聞いたりはしていなかった。
それが何故……と思ったが、ついでに野営地の大人たちの姿も思い出してしまった。
任務中はともかく、それ以外だと酒飲んで騒いで昼間で寝て……傭兵という特殊な職業だってボクは理解しているが、子供たちのお手本になるような大人はほとんどいなかった。
だからこそボクが面倒を見ていたってのもあるんだった。
真っ当な大人である母の言うことを大人しく聞くのはある意味当たり前なんだろうか……と考えていると、馬車がガタンと音を立てて停止した。
「おっと? 着いたのかな?」
窓の外を見ると大きな木の門が開かれている途中だった。
この奥かな?
だが、ボクの声に振り返った母が「違うわ」と言う。
「まだ敷地に入っただけよ。ここからもう少しあるわ」
ボクの中ではよくある森の中に建つ洋館……そんな感じをイメージしていたんだが。
「……大きいねぇ」
開けられた門の奥に見える光景は、洋館なんてとんでもない。
まるでちょっとした砦だった。




